小説「ゴルフ人間図鑑」 第8話 エージシュート
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(15)眼下にはカップインを待つボール
聡の傍にいる支配人の宝井が言った。孝平の眼下には、カップインを待っているボールがある。 「これを入れられますと、アウト39、イン38でグロス77のエージシュート達成です。おめでとうございます。…
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(14)芝生の緑も鮮やかな花道
孝平の投げたボールは、水滴を飛ばしながらグリーンの先のラフに落ちた。 美奈子は、それを素早く拾い上げると、グリーン上を這いながらカップに近づき、中に落とした。 パー4を2打でカップイ…
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(13)あ! ボールが池に向かっていく
正真正銘の悲惨な生活だった。心臓を患って満足に仕事も家事もできない老いた母と2人暮らし。それまではスポーツクラブの給料で暮らせたのだが、居酒屋のアルバイトでは、どう頑張っても暮らしが立たなかった。母…
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(12)弧を描きグリーン上にピタリ
2番ホールは、左傾斜でかつそこに林があり、ティーショットは左の林に入りがちである。もし入れば、ボギーも危ない。 孝平の打ったティーショットは、左の林の方向に飛んで行った。しかし、木の陰に隠れ…
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(11)カランという小気味いい音が響く
「何を改まって?」 「息子の健斗のことです。お陰でアメリカで医学研究に勤しんでおります」 「そうかい、それはなによりだね。優秀な息子さんを持って、芳子さんは幸せだね」 「本当にありが…
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(10)フェアウエイ、真ん中です
時には、スマートフォンで映像も送る。それによって宝井が指示をするのだ。 「やりましょう!」 宝井が拳を握りしめると、皆が、一斉に「オーッ」と今度は、勇者のごとき、雄叫びを上げた。 …
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(9)ゴルフ場を貸し切り一人でプレー
「覚えているわ。財界のゴルフで大手電力会社の会長さんが、誤球をしたのに、していないと言い張って、挙句には他のメンバーに『俺を誰だと思っているんだ』と怒鳴りだしたのよね。その場を収めにきたオーナーは、私…
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(8)「みんなで協力して達成させる」
伸介は、28歳と若く、筋肉が自慢のマッチョである。かつてスポーツクラブで水泳コーチをしていたというだけあって逆三角形の体が自慢である。 「伸介さん、どうぞ」 宝井に促され、伸介は恥ずか…
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(7)願いはエージシュートの達成
「どうなるのかとハラハラしてみておりました」宝井が言った。「そうしたら彼と一緒に飲んでいた仲間の方々が、『ここは引き上げよう。こんなところで問題を起こしたらニュースになるぞ』と彼をなだめてお帰りになり…
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(6)傍若無人さに退会を通告
練習場を整備し、プレーをしなくても練習だけでも楽しめるようにした。またコース内の木々も季節ごとに花が咲くように配置し、その景観の素晴らしさは多くのゴルフ雑誌の表紙を飾った。 地元の親子など住…
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(5)品位があって楽しめるゴルフ場に
「それじゃぁ、オーナーは?」 「もう慣れっこになっていたけど、折り合いの悪かった義母の姉の家が、向島にあってね。そこに引き取られたってわけさ。そこで高校卒業まで面倒を見てもらった……」 …
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(4)自然豊かな夷隅が懐かしい
孝平は、実母と暮らした鶯谷駅周辺のことを思い出していた。 鶯谷駅周辺は、上野寛永寺があり、また根岸の里のわび住まいと言われるほど文人が住む山の手だったのだが、当時も、今も、ホテルや旅館が立て…
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(3)フェアウエイの向こうに幻想的な景色
孝平は、実の母親が別にいると聞いた時以上に衝撃を受けた。母親は、鶯谷駅近くで飲食業を営んでいるという。義父母は、実母と連絡を取り合っていたのだ。 「私はここを動きません」 孝平は、泣き…
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(2)「負けるんじゃないよ」という声が
雄太郎は、夜逃げを決意した。ある夜、義母の美津子と孝平を居間に集めた。 「誠に申し訳ない。私は、お前たちを残して、今から夜逃げする。美津子には苦労をかけるが、後を頼む。債権者が来ても、肝心の俺…
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(1)引退前にやりたいこと、それは…
1 根津孝平は引退を考えていた。孝平は、千葉県成田市にある成田パインツリーカントリークラブというゴルフ場のオーナー兼理事長である。昭和21年生まれであるから今年、77歳になった。 ゴル…