7月27日は「世界頭頸部がんの日」頭頸部外科学専門医師に聞く早期発見の重要性~人間ドックで検査されない頭頸部がんとは~

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中高年男性が罹りやすい「頭頸部がん」とは?

 日本人の2人に1人が人生で一度は罹るというデータ*1があるほど、「がん」は日本人にとって身近な病気になりつつある。

 家族や友人はもとより自分自身が「がん」になったという人も少なくないだろう。胃がん大腸がん肺がんなどさまざまな種類のがんがある中で、意外と知られていないのが現在、50代以降の男性を中心に年間約3万3000人*2が罹患しているという「頭頸部がん(甲状腺がんを除く)」だ。

 折しも7月27日は「世界頭頸部がんの日」。これを機に、はたしてどんながんなのか取材してみた。

がんの種類では世界で6番目に多い「頭頸部がん」~診断項目に入っていない

 そもそも頭頸部とは体のどの部分を指すのか、専門家である東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学の大上研二教授に、まずはそこから話を伺った。

「たしかに一般の方には聞き慣れない言葉かもしれません。頭蓋底から鎖骨上まで眼窩内・頸椎を除く領域、つまり鎖骨より上の部分で眼球とその脊椎、脊髄を除いた部分が全て頭頸部とされ、そこにできるがんを総称して頭頸部がんと呼んでいます」

 頭頸部がんはがん全体の5~6%といわれ、がんの種類では世界で6番目に多いという。

 それでも胃がん、肺がんなどいわゆる5大がんと比べて認知度が極めて低いのは、胃がんであれば「胃」といった特定の部位に罹ったがんを指すのに対して、頭頸部がんは舌がん、喉頭がん、甲状腺がんなど種類があり、しかも咽頭がんだけでも3カ所あってそれらを総称して頭頸部がんとされているからである。

 さらに頭頸部がんの中では舌がん、咽頭がんが多いものの、他の5大がんと比較すると頭頸部がん全体の数としては少ないということに加えて、人間ドックや健康診断の検査項目に入っていないこともあって、どうしても認知度が低くなってしまうということが理解できた。

頭頸部がんを引き起こす長年の「飲酒」と「喫煙」

 頭頸部がんは50代以降の中高年男性ほど罹りやすいとされるが、その最大の要因となるのが「飲酒」と「喫煙」だ。

「もちろん、お酒を飲んだから、たばこを吸ったからといってすぐに頭頸部がんを発症するわけではありません。飲酒や喫煙の習慣が始まってから年を追うごとに遺伝子の変異が起き数十年かけて、がん化していくのです。特に飲酒や喫煙の習慣がある人は頭頸部がんだけではなく、食道がんや肺がんを併発することもあるので注意が必要です」

 さらに大上教授によると、飲酒に関して飲むと顔が赤くなる人、元々お酒を飲めなかったのにもかかわらず飲む機会が増えて飲めるようになったという人は、ある代謝酵素が欠損しているため発がん物質であるアセトアルデヒドが分解されにくい体質なので一番危ないのだそうだ。

※アセトアルデヒドとは
エタノールの最初の代謝産物であり、フラッシング反応や二日酔いの原因物質。ヒトへの発癌性が疑われている。アルコール飲料には生産の過程で高濃度のアセトアルデヒドが含まれており、たばこ煙からも高濃度のアセトアルデヒドが検出されている。*3

自覚症状が2週間以上続いたら耳鼻咽喉科へ

 胃がんや大腸がんなど他のがんと同じように頭頸部がんにおいても大事なのは何といっても「早期発見」することだ。

 頭頸部がんは特徴的な自覚症状が出にくいといわれるが、それでも「声がかすれたら喉頭がん、ベロが痛いと舌がんじゃないのかというのは、著名人や芸能関係者のがん告白や露出がテレビや新聞で広まっていることもあってでしょうか、一般的に多くの方に知られるようになりました。いずれにしても大切なのは喉やベロ、鼻などの違和感が2週間以上続くような時には速やかに耳鼻咽喉科に行って診てもらうことですが、この際、意外と見落とされがちなのが首の腫れです。これはリンパ節転移によって起こるもので、ちょっと首が腫れただけでは病院に行く方が少ないのでぜひとも覚えておいていただきたいですね」と大上教授は説明を続ける。

 確かに、違和感程度であれば記者も病気が原因と疑わず、お酒の飲み過ぎやたばこの吸い過ぎをすぐに疑い、どこかのタイミングでまた元通りになるだろうと考えることが多い。これでは早期発見につながることは難しいと、改めて実感した。

QOLを損なわない治療が求められる

 頭頸部がんの治療は進行度や部位によって手術、放射線、抗がん剤が柱となる。その点は胃がんや肺がんなど他のがんと同様だ。ただし、頭頸部がんの治療には他のがんとは大きく異なる特徴があると大上教授はいう。

「頭頸部というのは日常生活にとても重要な働きをする部位で、例えば呼吸するとか声を出す、モノや水を飲み込むといった「人として生きていく」うえでの大事な機能、言い換えれば「QOL(クオリティー・オブ・ライフ=生活の質)」を維持するのに必要な感覚を司っている場所です。ですから、それらがうまく働かないと食事をしたり、しゃべったり、呼吸をすることもできなくなります。その意味で治療する上ではそうした機能を大事にし、機能が損なわれない治療を進めていかなければならないというのは非常に難しいところであり、われわれ医師にとっては患者とのコミュニケーションを通じて一番よい着地点を探すうえでも、医師としてやりがいのある領域でもあります」

 もちろん患者によっては頭頸部がんが進行して舌や喉などを切除しなくてはならないケースも出てくることだろう。

 その際、たとえ命は助かっても食事を口から取れなくなったり、言葉が話せなくなったりなどQOLを大きく損ない、快適な社会的生活が営めなくなる恐れもある。それだけに早期発見・早期治療が何にも増して大切なのだということは肝に銘じておきたいものだ。

HPV関連の中咽頭がんが増えている

 近年、喫煙率の低下により頭頸部がんの罹患率もほぼ横ばいに推移しているといわれる。そんな中、見逃せない変化があると大上教授は警鐘を鳴らす。

「ここ数年、HPV(ヒトパピローマウイルス)が原因となる中咽頭がんが世界的に増えている傾向にあります。日本でも同じ傾向が確認されており、私どもの学会でも今、大きな話題となっています」

 HPVは一般的に子宮頸がんを引き起こすことで知られるウイルスと我々は認識している。それはよくテレビCMなどでワクチン接種を促しているのを見たことがあるからだろう。だが、それがなぜ男性の中咽頭がんを誘発するのか詳しく聞いてみた。

「子宮頸がんと中咽頭がんは全く関係なさそうに思えますが、組織的な構造がとてもよく似ています。例えば子宮頸がんの場合は性交渉によって子宮頸部に傷がつき、そこにHPVが感染するとがんを発症します。一方、中咽頭がんは扁桃の中に洞窟のような溝があってそこの奥底にHPVが感染してガンを引き起こすといわれています。そして中咽頭がんの場合、実はその誘因となるのが性交渉とオーラルセックスなのです。最近30代で中咽頭がんになる男性が増えているというのは何とも気がかりなところではありますね。従来の喫煙、飲酒以外の発がん要因として大きく注目されています」

 HPV関連の中咽頭がんの予防にはHPVワクチンの接種が有効だと考えられている。そのため諸外国では男子でもオーストラリア81%、カナダ81%、アメリカ76%*4と高い接種率となっているが、日本では子宮頸がんの予防のため12歳~16歳の女子に限っての定期接種だ。しかも令和4年4月に積極的勧奨が再開されたばかりで、男子には実施されていないのが現状だ。はたして今後どうなるのか、この点は注視しておきたいところだ。

早期に発見できれば恐れることはない

 大上教授に様々な角度から頭頸部がんについて伺ったが、まとめとして読者にメッセージをお願いすると「繰り返しになってしまうかもしれませんが、やはり大事なのはお酒とたばことの付き合い方ですね。お酒は飲みすぎないようにほどほどにしていただくとして、喫煙は頭頸部がんを招く可能性がありますので禁煙したほうがいいでしょうね。そしてもう1つ大切なのは、喉や首の痛み、違和感、声がれなどの症状が出た場合に2週間以上経っても改善の兆候がなければ、一度は耳鼻咽喉科で診てもらうようにすること。早期に発見できれば頭頸部がんは決して怖いがんではありませんから恐れる必要はありません」

「また、毎年1回、人間ドックや健康診断を受けている方は内視鏡(胃カメラ)の検査をおススメしたいですね。その際、先生に『喉も一緒に確認して診察してほしいです』というと『ああ、この人はよく知っているな』と思ってしっかりと見ていただけるのではないでしょうか。ぜひ試してみてください」と清々しい笑顔でまとめてくださった。

 早期発見さえできれば決して怖くないがんであることを最後に改めて認識した。

 簡単に早期発見と言われても難しいと感じる方も多数いるだろう。
 しかし、日々の生活での違和感や健康診断や人間ドックにおいての医師との面談や検査医とのコミュニケーションにより、安心を得られるのであれば一言伝えていきたいと記者は思った。早速8月に予定されている人間ドックの検診内容を確認し、オプション検査も含めて検討していこうと思った。

■医師プロフィール

大上研二(おおかみ けんじ)
東海大学医学部 副学部長、東海大学付属病院 副院長 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 領域主任教授

学歴・職歴
1986年 山口大学医学部耳鼻咽喉科 入局
1990年 山口大学医学部附属病院助手 耳鼻咽喉科
1996年 米国ジョンス・ホプキンス大学医学部 留学 
2009年 東海大学医学部耳鼻咽喉科 教授
2015年 東海大学医学部付属病院 医療監査部長 
2016年 同 副院長(医療安全担当) 
2018年 東海大学医学部 専門診療学系 学系長
2022年 同 副医学部長

専門分野
頭頸部癌の診断と治療、頭頸部表在癌の診断と低侵襲手術、頭頸部癌の癌抑制遺伝子の研究

学会活動
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 代議員・神奈川県地方部会常任理事
日本頭頸部外科学会 理事 2026年会長
日本気管食道科学会 理事 会報編集委員長
日本唾液腺学会 理事 2025年会長
日本喉頭科学会 理事
日本頭頸部癌学会 評議員

*1 出典:国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計」
*2 出典:一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会 頭頸部外科情報サイト「頭頸部がんの部位別罹患数年次推移」
*3 出典:厚生労働省 e-ヘルスネット
*4 出典:WHO Human Papillomavirus (HPV) vaccination coverage 2023 (Accessed June 5th, 2024)

■協力 メルクバイオファーマ株式会社

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