五木寛之 流されゆく日々
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連載11470回 遠眼鏡を逆さまに <4>
(昨日のつづき) ロシアからの国外逃避者の波がとまらない。28日の朝刊にのっている一枚の写真に注目する。APからの配信写真だ。 27日、ロシア国境をこえ、ジョージアに入国するロシア人たちの群集…
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連載11469回 遠眼鏡を逆さまに <3>
(昨日のつづき) <捨てる>といえば、深沢七郎の『楢山節考』は老人を捨てる話だった。『遠野物語』にもあるように、かつて人間を捨てる文化というものがあったのだ。 そして、みずから進んで<捨身>しよ…
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連載11468回 遠眼鏡を逆さまに <2>
(昨日のつづき) かつて国の命運を左右するのは、権力者であり、国王であり、政治家だった。いまもなお多くの為政者がナントカ外交などと称して、その勢威を誇示している。 しかし、いまはすでに戦争も平…
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連載11467回 遠眼鏡を逆さまに <1>
昭和7年9月30日。私はその日に生まれた。西暦でいえば1932年、満州建国の年であり、五・一五事件のおきた年である。 経歴も思想も、まったく違うが、奇しくも故・石原慎太郎氏と同年同日の生れだった…
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連載11466回 時代を超えて願うもの <3>
(昨日のつづき) マウントをとる、といえば穏やかだが、これが国際的な状況下ではそうはいかない。 国際政治の場でマウントをとるということは、要するに覇権を握るということだからである。 ヨーロ…
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連載11465回 時代を超えて願うもの <2>
(昨日のつづき) 最近、よく聞く言葉に<マウントをとる>というのがある。 「ルックスはいいんだけどさ、やたらとマウントをとりたがるタイプでね」 などと若い衆が喋っているのを耳にしたりすること…
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連載11464回 時代を超えて願うもの <1>
以前にも書いた記憶があるが、私たち日本人の願望というか、意識の底にわだかまっている望みは、一体なんだろうと考えることがある。 各地、各都市の寺や社をまわって、さまざまな願い事の証しを見た。参詣す…
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連載11463回 過ぎゆく夏に思うこと <5>
(昨日のつづき) そろそろ活字を読む季節になった。もちろん一年中なにか読んで暮らしているのだが、秋になると少し変った本を読もうと思ったりするのである。 部屋の壁際に積みあげてある文庫本の中から…
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連載11462回 過ぎゆく夏に思うこと <4>
(昨日のつづき) <われと来て 遊べや親のない雀> 簡素な暮しのなかでも、遊ぼうと思えばスズメとでも遊ぶことができるのだ。 私はこの2、3年、朝に近くの公園の人気のない道を15分ほど歩くこと…
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連載11461回 過ぎゆく夏に思うこと <3>
(昨日のつづき) 人生の4番目の季節、<遊行期>という文字を、つらつら眺めて考える。 <遊行>とは本来、宗教的な言葉である。棲み家を離れて、杖1本の旅に出る。漂泊の日々のなかに悟りを求めようとす…
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連載11460回 過ぎゆく夏に思うこと <2>
(昨日のつづき) きょうは台風の影響か、うすら寒いような風が吹いていた。 いいかげんに夏服をしまい込んで、季節らしいジャケットに変えなければならない。空の雲は、もうすっかり秋の気配だ。 暦…
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連載11459回 過ぎゆく夏に思うこと <1>
今年、2022年は、なんとなく異様な年であるような気がする。 ギリギリと乾いた音をたてて、世界が大きく転回しつつある気配を感じるのだ。 一時、収束するかに見えたコロナ禍は一向に収束せず、余波…
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連載11458回 自分自身の広告─「五木寛之セレクション」について─ <5>
(昨日のつづき) <五木寛之セレクション>のトップの巻に選んだのは、『蒼ざめた馬を見よ』と、『夜の斧』、そして『深夜美術館』の3篇だ。 私はミステリーの最大のものは、国際政治だと思っている。現在…
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連載11457回 自分自身の広告─「五木寛之セレクション」について─ <4>
(昨日のつづき) 私が新人賞でデビューして、最初に書いた新聞小説は、スポーツ紙だった。 「うちは一般紙じゃないですから、思いきり派手なやつを書いてください」 と、デスクに念を押されて、『狼の…
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連載11456回 自分自身の広告─「五木寛之セレクション」について─ <3>
(昨日のつづき) 私の作家としてのモットーの一つは、<雑>ということだ。雑然、の雑、雑誌の雑である。文章として発表するものは読者へのメッセージだ。メッセージの伝え方は様々である。 表現の一つの…
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連載11455回 自分自身の広告─「五木寛之セレクション」について─ <2>
(昨日のつづき) 自分の『セレクション作品集』について書くつもりが、冒頭から脱線してしまった。F・フォーサイスの話を持ちだしたのは、作風と作品のジャンルが一定している例について言いたかったのだ。 …
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連載11454回 自分自身の広告─「五木寛之セレクション」について─ <1>
こんど『五木寛之セレクション』という作品集を出すことになった。(東京書籍刊) 巻数を限らないシリーズ版で、第1巻が<国際ミステリー集>。 この後、<音楽・芸能シリーズ><恋愛小説シリーズ><…
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連載11453回 「新老人」のすすめ <5>
(昨日のつづき) ゴルバチョフ氏が亡くなった。 享年91というから、ほとんど私と同世代である。90の壁は越えてからが大変らしい。 ゴルビー氏とは、一度だけ会ったことがある。彼が公式に訪日し…
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連載11452回 「新老人」のすすめ <4>
(昨日のつづき) <新老人>という言葉を提案したいと思う。 かつての<新人類>と同じように、ある抵抗感を社会にあたえながら登場する新しいグループである。 それは従来の高齢者、老人のイメージと…
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連載11451回 「新老人」のすすめ <3>
(昨日のつづき) 以前、大型バイクで深夜の街を疾走する老人の話を小説に書いたことがある。 それはある意味で、当時の私の<夢>でもあった。 私は比較的早くに運転免許を返納したが、そのことを後…