五木寛之 流されゆく日々
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連載11556回 遊びながら努力する <3>
(昨日のつづき) いわゆる認知症やアルツハイマー型の症状に対しては、現在もさまざまな対抗策が紹介されている。 生理的なトレーニングによって、ボケるのを少しでもおくらせよう、軽減させようという対…
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連載11555回 遊びながら努力する <2>
(昨日のつづき) この連載を、ときどき読んでくれている古い友人の一人から、 「最近、<正しいボケかた>なんて言ってるけど、ボケに正しいも、間違いもないだろう。良いボケ、悪いボケなどと区別するのは…
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連載11554回 遊びながら努力する <1>
(先週のつづき) 先週まで<正しいボケかた><望ましいボケかた>などについて、『下を向いて歩きながら』というタイトルで書いてきた。 要するに、ボケを否定したり、怖がったりするな、という話の続き…
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連載11553回 下を向いて歩きながら <5>
(昨日のつづき) 前おきが長くなった。本題にもどる。 問題はボケることではない。人は加齢とともに自然にボケるものだと納得する。ボケることを怖がったり、否定して逆らったりするのは間違いだ。 …
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連載11552回 下を向いて歩きながら <4>
(昨日のつづき) 年をとると人間の体は衰える。 これは永遠の真理である。体型も変るし、運動能力も低下する。 いま現在、私は20代の頃より身長が2センチあまり縮んだ。長くはいているズボンの裾…
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連載11551回 下を向いて歩きながら <3>
(昨日のつづき) 閑話休題。昔ばなしを始めるときりがない。うらやましいボケかた、のぞましいボケかたのほうへ話をもどそう。 前にも書いたことがあるので、憶えていらっしゃるかたもおられることだろう…
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連載11550回 下を向いて歩きながら <2>
(昨日のつづき) 私たちは一体、どんなふうにボケていくのだろうか。 普通に考えられるのは、まず記憶力の減退だろう。物忘れとか、うっかり、とか、記憶の退化は日常的な現象である。 固有名詞、す…
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連載11549回 下を向いて歩きながら <1>
いま私たち平均的な日本人が抱いている不安はなんだろう。 戦後、かなり長いあいだ私たちは<はやく死ぬこと>への不安を抱いて生きてきた。いわゆる健康ブームの正体はそれである。 しかしいま、私たち…
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連載11548回 男の更年期について <5>
(昨日のつづき) いずれにせよ最近の医学の進歩には驚くべきものがある。体の問題だけでなく、精神面と結びついた健康へのアプローチが、すざまじい勢いで進化しているのだ。 人生、といえば心の問題とし…
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連載11547回 男の更年期について <4>
(昨日のつづき) 私たちの昭和ヒトケタ世代には、ある奇妙な傾向があるらしい。 それは日常生活の中では近代科学の成果にドップリつかりながら、どこかでそれを信用していないところである。 笑われ…
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連載11546回 男の更年期について <3>
(昨日のつづき) テストステロンというのがいったい何なのか、私は知らなかった。 先ごろ角川新書の『LOH症候群』という本を読んで、いろいろ気になるところがあった。 それによれば、中高年男性…
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連載11545回 男の更年期について <2>
(昨日のつづき) 車は正しく扱いさえすれば、正しく反応する。思いがけない事故、などというものはない。すべてドライバーの不注意か操作ミスが原因であるといっていい。 エンジンや、サスペンションや、…
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連載11544回 男の更年期について <1>
更年期というものは、女性だけのものと思われていた時代があった。 「うちのカミさんも更年期にはいってね、なかなか大変なんだよ」 などと男たちがこぼしている光景が、よく見られたものである。 な…
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連載11543回 ある未亡人の妄想 <5>
(昨日のつづき) そう考えてくると、ボケというのは高齢期の人間の情けない凋落の姿ではなく、なにか一つの希望的側面が反映している現象のような気さえしてくる。 ボケが入りだした時期のマイナス的現象…
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連載11542回 ある未亡人の妄想 <4>
(昨日のつづき) 高松淳一医師の『デフォルメ鏡』の<プロローグ>の中の一節を読んだとき、私はふとある友人から聞いた話を思い出した。 彼はベテランの編集者であるが、地方都市の出身者である。大学を…
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連載11541回 ある未亡人の妄想 <3>
(昨日のつづき) ものがなくなった、盗まれた、と言いだすのは、認知症の一つの徴候とされるのは周知のとおりだ。<もの盗られ妄想>などともいうらしい。 私がこのところ繰り返し読み返している一冊の本…
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連載11540回 ある未亡人の妄想 <2>
(昨日のつづき) その未亡人は若い頃から気品のある美しさと、気さくなお人柄で評判のご婦人だった。外国の大学を出ていらして、近年まで短歌の結社でも活躍されていたという。 それだけに夫君の逝去後、…
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連載11539回 ある未亡人の妄想 <1>
ある個性的な作家がいらした。いらしたというのは、すでに故人となられたかただからだ。 私はそのかたの文体が好きで、何度かまねを試みたが、うまくいかなかった。やさしい書き方だが、その背後に無限といっ…
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連載11538回 これまでと違う新年 <7>
(昨日のつづき) マイク・モラスキーさんの『呑めば、都』(ちくま文庫)は、いまから10年ほど前に出版された本である。 一読、なぜかひどく懐しい気がしたのは、居酒屋という舞台のせいではない。私は…
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連載11537回 これまでと違う新年 <6>
(昨日のつづき) マイク・モラスキーさんと対談の冒頭、 「これを五木さん宛に託されてきました」 と、モラスキーさんから手渡された印刷物の束があった。 「先日、盛岡にいってきました。その折り…