小説「ゴルフ人間図鑑」 第6話 イップス
-
(15)ボールが真っすぐに転がっていく
「治ったよ」 慎吾が菱川に言った。 「本当ですか?」 菱川の顔が喜びに満ちている。 「大丈夫だ。私が保証するんだ。明日は自信を持って戦ってきてくれ」 「ありがとうござ…
-
(14)あっ ヘッドの上に神様が
菱川は、目に涙をたたえている。 その涙を見た時、慎吾の中の恨みが氷解していくのが分かった。もう過去のことだ。忘れよう。今は、菱川のイップスを治療してやることだ。 「わかりました。やりま…
-
(13)菱川が床に跪き、土下座した
社長は、必死の形相で頼んだ。 菱川がイップス? 慎吾は、腹の中から笑いが沸き起こった。ざまあみろ! 人を呪わば穴二つと言うだろう。俺をイップスにした報いだ……。 慎吾は、菱川…
-
(12)パットがへたくそすぎる
菱川は、慎吾が一番会いたくない相手だった。会社では、1年後輩である。なぜ会いたくないのか。それは会社のゴルフ部においてライバルだったからだ。 ヤマトホテル・リゾートグループは、大手新聞社の大…
-
(11)イップス治療は落語「死神」と同じ
男の目の前に、ジッジッと音を立てて、ほとんど溶けてしまった蝋燭がある。すぐにでも消えてしまいそうだ。 「寿命が尽きるんですね」 「それがお前の蝋燭だ」 「えっ!」 男は、驚…
-
(10)ドライバーが冴え、久々の優勝
「ドライバーを構えたまま、目を閉じてください」慎吾は、真由美に言った。儀式らしくしたのである。「心を落ち着けてください」 真由美は、目を閉じ、ドライバーを構えた。 慎吾は、真由美に近づ…
-
(9)テイクバックから振り下ろせない
「ええ」真由美は、悲しそうに視線を落とした。「私は、ティーイングエリアに立ったのです。その時です。目の前に広がるフェアウエイがそそり立つ壁に見えたのです」 「打ち上げですか?」 「いいえ」…
-
(8)女子プロのイップス治療を頼まれ…
4 慎吾のところにイップスに悩む経営者ばかりではなくプロ、アマ問わず多くのゴルファーが相談にやってくるようになった。 豊川が、あちこちで慎吾のことを吹聴したからである。 イップ…
-
(7)澄んだ音を響かせカップイン
なんだか手が軽い。力が抜けている。私は、「えいっ」と聞こえないほどの掛け声を自らにかけ、パターを振った。 するとどうだろう。手のこだわりも、硬直もなにもない。パターのヘッドがしなやかに走った…
-
(6)イップスの神様は本当だった
「いえ、そうではなくて私も同じ病気で悩んでいましてね。もう2年ほどになるんです。いろいろなコーチについて治そうと努力したのですが、未だにどうにもならないんです。会社で、勇気を出せ、積極果敢に行け、失敗…
-
(5)ワンパットなら10万円の賞金
3 「北山君はゴルフが上手いね」 トヨカワ自動車の豊川社長が、慎吾のスイングが素晴らしいので満足そうな笑みを浮かべた。 「それが……パットが問題なんです」 慎吾は、豊川の視…
-
(4)イップスを治してやろう
「まあ、いいでしょう。八百万の神様っていうくらいだから、イップスの神様くらいいてもおかしくはない」 慎吾は、指で頬をつねってみた。夢なら、痛さで覚めるからだ。しかし、痛いが、覚めない。夢ではな…
-
(3)この老人がイップスの神!?
原因がわかれば、治療法もわかると思うのだが、全く思いつかない。 もっと上手くなろう、失敗をしないようにしようなどと、強く思いすぎているのだろうかと考え、「気楽に、気楽に」と呟きながらパッティ…
-
(2)フェアウエイが狭く見える
プレーがスタートするティーイングエリアに立って、衆人環視の中で、ドライバーショットを打つ。イップスではないプレーヤーも最初のドライバーショットは緊張する。 右には、松林がフェアウエイの中ほど…
-
(1)いっそ腕を切ってしまいたい
1 ヤマトホテル・リゾートグループの法人営業担当者の北山慎吾には深刻な悩みがあった。 ゴルフにおけるイップスである。 イップスとは、突然、ドライバーやパットが打てなくなることだ…