五木寛之 流されゆく日々
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連載11309回 リモート選考会始末記 <1>
このところコロナのせいで、やたらとリモートが重宝されている。 テレビのゲストなども、リモート出演が多く、時にはうんざりさせられることも少くない。 画像が悪く、音質も不安定で聴きづらいからであ…
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連載11308回 耳学問のすすめ <5>
(昨日のつづき) そもそも仏教はどのように広まっていったのだろうか。 ここで再びゴータマさんの話にもどる。ブッダは生涯をかけて何をした人なのか。 まず話をした。それを説法というか、講話とい…
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連載11307回 耳学問のすすめ <4>
(昨日のつづき) 親鸞が浄土真宗の始祖なら、蓮如は中興の祖とされる存在だ。 蓮如という人物は、やたらと毀誉褒貶の多い人物である。要するに宗門ではとびきり重要な人物だが、外部ではひどく風当りがつ…
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連載11306回 耳学問のすすめ <3>
(昨日のつづき) 例によって話がとぶが、ブッダという人は、一体どんなことをした人だろう。 言うまでもないが、ブッダとは、いわゆる「おシャカさま」のことだけをいう言葉ではない。一般人のレベルを超…
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連載11305回 耳学問のすすめ <2>
(昨日のつづき) 『学問のすすめ』は、言うまでもなく福沢諭吉の話題作である。 明治5年の発行以来、巻を重ねて総数350万部に達した大ベストセラーだ。わが国における近代的、合理的な人間観を語った啓…
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連載11304回 耳学問のすすめ <1>
<耳>が大事なのだ。昔からそう思ってきたが、最近ますます<耳が大事>と感じるようになった。 現代のカルチュアは<目>によって支えられてきた。要するに活字である。本を読む、テキストを読むことで人間の…
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連載11303回 ゴミ屋敷住人の独白 <5>
(昨日のつづき) 私はグルメとは縁の遠い野暮天である。御馳走といえば、すぐにすき焼きを連想するぐらいが関の山だ。 それも関西ふうの、お店の人が見事な肉を一枚ずつ焼いてくれるような贅沢なすき焼き…
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連載11302回 ゴミ屋敷住人の独白 <4>
(昨日のつづき) 去年の暮れのことだったと思うが、新聞の投書欄にこんな文章がのっていた。手もとにその記事がないので、うろ憶えのままを書く。あらましはこんな話だ。 <ふだん子供たちには、命の大切さ…
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連載11301回 ゴミ屋敷住人の独白 <3>
(昨日のつづき) <大事を論ぜず、小事を述べる> というのが、小説家としての私の心得であるが、ときどきつい偉そうな事を言ったり書いたりする。 たかが身辺のモノを捨てるか捨てないかぐらいの事で…
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連載11300回 ゴミ屋敷住人の独白 <2>
(昨日のつづき) 生産と消費、この2つの行為によって現代社会は成り立っている。少くともそのように見える。 しかし、ここで大事なことが見落されているような気がしてならない。 生産し、消費する…
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連載11299回 ゴミ屋敷住人の独白 <1>
先週、文芸春秋のインタビューを受けた。そのとき私の若かりし頃の写真を見せられて、髪が真黒なことに思わずため息をついた。そんな時代もあったのだ。 「何年くらい前の写真ですかね」 「さあ。たぶん相当…
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連載11298回 再び『マサカの時代』へ <4>
(昨日のつづき) 今年になって出た自分の本のPRを、もう一度させてもらおうと思う。 中央公論新社から先日、発売された『一期一会の人びと』について。 <一瞬の出会いだからこそ色褪せぬ記憶もある…
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連載11297回 再び『マサカの時代』へ <3>
(昨日のつづき) こんど『雨の日には車をみがいて』という昔の小説を、装を新たにして出すことにした。 これは1988年の6月に角川書店から刊行された本である。今から34年も前の本だ。 これは…
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連載11296回 再び「マサカの時代」へ <2>
(昨日のつづき) 昨日の原稿が活字になったのを読んでびっくりした。時間ギリギリになって、あわてて書いたのだ。再読するいとまもなく、FAXで送ったのだが、きょうの紙面を見ると文章の乱れがひどい。 …
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連載11295回 再び「マサカの時代」へ <1>
2022年の幕明けである。 最近は<松の内>などという言葉も聞かなくなった。昔は1月の半ばまでは松の内といって、お屠蘇気分だったらしい。 それがいつのまにやら半分にちぢまり、7日頃までをいう…
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連載11294回 正月は活字とともに <4>
(昨日のつづき) 朝、カーテンを開けて驚いた。 視界がまっ白である。 一瞬、視力の老化がここまできたかと疑ったが、なんのことはない、雪だった。北国の人には申し訳ないが、ひさしぶりの銀世界に…
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連載11293回 正月は活字とともに <3>
(昨日のつづき) 残念なニュースがひとつ。 <ステイ・ホーム>の掛け声で、家にとじこもって本を読む人が増えた、というのは昨年のニュースだった。 しかし、梅雨時の雨のようにジクジク続くコロナの…
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連載11292回 正月は活字とともに <2>
(昨日のつづき) 全国紙の1面のコラムには毎日、目を通すことができるが、地方紙のそれはなかなかそうはいかない。 しかし、それでも私は以前から各地地方紙のコラムには、かなり広く目を通してきたつも…
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連載11291回 正月は活字とともに <1>
<去年今年貫く棒の如きもの> <降る雪や明治は遠くなりにけり> 新たな年を迎えるたびに、ふと口をついて出てくる有名な句だ。 しかし今年は、そんな感慨もなく、ただ新型コロナの動向が気になるばか…
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連載11290回 世論をうつす鏡として <2>
(昨日のつづき) 今年最後の原稿である。 今日は『家の光』と『クロワッサン』の取材を終えて机に向かう。 このところ連日、2つか3つのインターヴューをこなして日が過ぎた。 『朝日新聞WEB…