五木寛之 流されゆく日々
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連載10867回 今なぜ『大河の一滴』か <1>
私は新人の頃から、 「イツキは暗い」 と、言われてきた。本人はそうでもないのだが、書くものはたしかに暗い。筆致が暗いのではなく、トーンが暗いのである。 先ごろ新書で再刊した『人生の目的』な…
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連載10865回 新しい鬱の時代の始まり <4>
(昨日のつづき) アフリカが危ない。イタリア、スペインに続いて、アフリカにコロナウイルスが蔓延しつつあるようだ。 まだ圧倒的な数字は公表されていないものの、実際には調査、確認が十分になされてい…
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連載10864回 新しい鬱の時代の始まり <3>
(昨日のつづき) 最初、楽観的だったコロナウイルス騒ぎだが、どうやらさらに深刻化してきそうな気配がある。 暖かくなればウイルスがおとなしくなる、などと最初は気楽にいわれていた。3月、4月、おそ…
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連載10863回 新しい鬱の時代の始まり <2>
(昨日のつづき) コロナ蔓延の勢いがとまらない。アメリカは驚くほどの拡大ぶりだ。国民的コメディアンだった志村けんさんの死去も報じられて、危機感は一層たかまるばかりである。 しかし、亡くなるのは…
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連載10862回 新しい鬱の時代の始まり <1>
むかし、といっても平成10年ごろに出した『大河の一滴』という本がある。 その中に<ラジオ深夜一夜物語>という章があって、私が当時<ラジオ深夜便>で勝手に喋った言葉が再録されていた。そんな雑文のな…
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連載10861回 「サクラサイタ」の憂鬱 <5>
(昨日のつづき) きょう26日(木)は、夕方6時から漫画家の倉田真由美さんとの対談。 同じ福岡出身とあって、最初から旧知の友人のように楽に話ができた。昨夜、お勉強のため、倉田氏の『だめんず・う…
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連載10860回 「サクラサイタ」の憂鬱 <4>
(昨日のつづき) この数日、新しい言葉をいくつも憶えた。 いわく<メガ・クラスター><オーバー・シュート><ロック・ダウン>などなど。 都市封鎖のことが話題になると、たちまちスーパーやコン…
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連載10859回 「サクラサイタ」の憂鬱 <3>
(昨日のつづき) どうやら東京五輪は延期になるようだ。 「一寸先は闇」とは、よく言ったものだ。将来の予測などなかなかできるものではない。とは言うものの兼好法師が言うように、予測せずに何かを為すこ…
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連載10858回 「サクラサイタ」の憂鬱 <2>
(昨日のつづき) どうやらアメリカはコロナウイルスで大変な騒ぎになっているらしい。ニューヨークは、まるで通夜のような静けさだとか。 打ち合わせに使っているホテルの喫茶ラウンジも、夕方にはクロー…
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連載10857回 「サクラサイタ」の憂鬱 <1>
コロナウイルスの流行のなかでも、今年の桜は例年どおり開花した。 花の下での宴会は禁止されたが、それでも桜の名所にはマスク姿の花見客たちが結構おしよせているようだ。 この数カ月の鬱々とした生活…
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連載10856回 不安の季節の中で <4>
(昨日のつづき) 令和という時代は、どうも波瀾ぶくみの季節のような予感がする。 昭和は大変な時代だった。平成にもいろいろあった。しかし、平成はどうやら乗り切ることができたが、令和はどうだろうか…
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連載10855回 不安の季節の中で <3>
(昨日のつづき) 本日、17日火曜日は、ブックジャーナリストの内田剛さんと対談形式のインターヴュー。最近出した本などをめぐって、1時間はあっというまに過ぎた。 出版不況とかいわれる昨今、新型ウ…
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連載10854回 不安の季節の中で <2>
(昨日のつづき) こんどの新型コロナ・ウイルスの大流行に関して、かつての「サーズ」のことがよく引き合いに出される。 2002年頃から世界的に流行した伝染病だというが、あまり記憶に残っていないの…
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連載10853回 不安の季節の中で <1>
コロナ・ウィルスの蔓延で、いろんな所に様々な影響がでているようだ。カミュの『ペスト』が再び読まれているというゴシップもあったが本当だろうか。 伝染病といえばすぐに思い出すのが、敗戦後の外地での冬…
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連載10852回 私が相続したもの <11>
(昨日のつづき) 昨日のこの欄に文字の間違いがあった。戦時中の記憶についての一節だ。 <上御一人>と書くべきところを、うっかり<神御一人>と原稿に書いてしまった。これは<カミゴイチニン>と読む。…
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連載10851回 私が相続したもの <4>
(昨日のつづき) 私は子供の頃も、そして少年時代も、ほとんど宗教というものに関心がなかった。 昭和の前期、戦争の時代には当然のように神御一人に礼拝し、神社に参拝するのが国民の義務だった。しかし…
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連載10850回 私が相続したもの <3>
(昨日のつづき) この歳になって「後悔」などと言い出せば笑われるにちがいない。「後悔先にたたず」とは、よく言ったものである。 最近、つくづく思うことの一つは、両親のことである。私の両親は、共に…
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連載10849回 私が相続したもの <2>
(昨日のつづき) かつて陸軍の兵士は、ゲートルというものを脚に巻くことになっていました。英語が禁止になっていた時代ですから「巻脚絆」と呼んでいたと思います。 日本軍はドイツやアメリカ軍などとち…
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連載10848回 私が相続したもの <1>
自分は何も相続しなかった。裸一貫で生きてきた。私はずっとそう思っていました。 しかしモノだけが相続したものではないと考えると、まったく視野が変ってきます。 私は昭和7年に生まれました。193…
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連載10847回 「一瞬面授」の人びと <5>
(昨日のつづき) 久野収さんの回想をつづった『面々授受』を読んで感じるのは、いわゆる戦前の知識人たちの柔軟な闊達さと自由さだ。 ポピュリズムの発生と横行の遠因近因は、知の階層化と特権に対する在…