今注目のInnovative University~武蔵大学~
可能性がどんどん広がるゼミの武蔵
2023年は3年半にわたるコロナ禍が収束した年になった。今年度から通常授業に全面的に切り替えた大学も多い。特に対面での綿密な指導が容易になったことで、少人数教育に力を入れる大学にとっていよいよ真価が発揮されそうだ。
武蔵大もこうした「少数精鋭」の教育に注力する大学の一つだ。その伝統はルーツとなる旧制武蔵高校時代から100年以上にわたって根付いている。特に英語をはじめとするグローバル教育と、1年次から参加するゼミ教育には定評があり、特に後者は「ゼミの武蔵」との呼び声も高い。
国際教養学部を新設
グローバル教育では、学部ごとにプログラムを設置している。例えば、経済学部では「海外インターンシップ」や「グローバル企業研究」などの科目を配置し、人文学部では外国語でディスカッションし、外国語の講義が受講できるレベルを目指す「グローバル・チャレンジ」プログラムを設けている。社会学部では、来たるグローバル時代とAI時代に対応できる人材を育成すべく、「グローバル・データサイエンスコース」を設置している。
こうしたコースが母体となり、学部学科に昇格した例もある。22年4月に武蔵大は国際教養学部を開設した。経済経営学専攻とグローバルスタディーズ専攻の2つに分かれており、それぞれ経済学部と人文学部にあったコースを新学部に組み込んだ。
ロンドン大学の学位を取得できるプログラム
経済経営学専攻はイギリス・ロンドン大学およびスクール・オブ・エコノミクス(LSE)と提携した「パラレル・ディグリー・プログラム(PDP)」が特徴だ。PDPでは、ロンドン大学とLSEが策定した授業概要に沿った授業を武蔵大で受講し、ロンドン大学とLSEが実施する試験に合格することで、留学をせずとも武蔵大学とロンドン大学両方の学位を取得できる。
PDPは国際的な英語検定である「IELTS」のスコアが、1年生の9月までに、オーバーオール5.5以上、各セクション5.0以上であることが求められるものの、経済経営学専攻の学生であれば誰もが履修可能だ。PDPの授業は英語で行われ、教科書もロンドン大学およびLSEが作成したものを使用する。奨学金も充実しており、成績優秀者は協定留学でLSEに留学できる。
PDPは、15年に導入された当初は経済学部で提供されていたが、国際教養学部に移行してからは履修生も2倍となった。これまでアクセンチュアや東大公共政策大学院など、外資系企業や国内外の研究機関・大学院などの進路を中心に40人以上のロンドン大学の学位取得者を輩出している。
武蔵大の高橋徳行学長は、「国際教養学部としては2年目の取り組みだが、今年入学した学生の61人中43人がPDPに挑戦している。英語と数学の勉強が大変だと思うが、一人でも多くの学生に修了して欲しい」とエールを送る。
経済経営学専攻では、英語による国際教育だけでなく、統計学や計量経済学などデータサイエンスも重視している。そのため、入試科目に「数学基礎」が必須なのも特徴だ。経済学や統計学、計量経済学を深く学び、グローバルに活躍するには理系的なセンスも必要となることから、必須の科目といえよう。グローバルスタディーズ専攻では、1年次から少人数による英語だけの授業を取り入れながら、英語力の涵養と国際人としての教養を身に付ける。3年次以降は半年以上の留学を推奨している。
学部横断ゼミでは互いの専門をもとに白熱した議論も
武蔵大では少人数教育の強みを生かす形で「学部横断ゼミ」も展開している。08年から続く全学の取り組みで、企業と連携し、半年かけて学生と課題解決に挑む産学連携プロジェクトだ。
高橋学長は、「人文科学系と社会科学系の学生が互いの専門をもとに議論し合うため、しばしば白熱したものになり、時にはけんかも始まる。複数学部の教員がゼミを担当していることも特徴であり、一つの物事を多角的に見るため、学生達の学びの機会になっている。最近はこの授業の同窓会まで結成されました」と胸を張る。
こうした全学を挙げた授業は人気で、選ばれた学生しか受講できない大学も珍しくない。だが、入学時から少人数教育をうたう武蔵大では、「基本的には毎年希望者全員が受講できる」(高橋学長)のが強みだ。学部横断ゼミ以外でも、武蔵大はさまざまな学問領域を横断したゼミに取り組んでいる。
就職支援は全学を挙げた取り組み
こうした武蔵大の姿勢は就職支援にも大きく表れている。エントリーシートの添削から、業種別の説明会まで幅広く実施し、9割以上の学生が支援を受けているという。学生1人あたり平均7回もキャリア支援センターで面談しており、OB・OGからのサポートも手厚い。
他大学だと、有力ゼミの卒業生がリクルーターとなるケースも珍しくないが、「ゼミの武蔵」では就職支援は全学を挙げた取り組みになる。これは、ゼミ間の優劣をなくし、どのゼミで学んでいても、学生に等しく就職機会を与える教育にも繋がっている。
「94%の卒業生が、自分の就職先に満足している。ゼミで学んだことをどう社会に繋げるかまで武蔵では面倒を徹底的に見る。結果、OB・OGが恩返しに来るような好循環が脈々と続いている」と高橋学長は話す。
将来的にはデータサイエンスの学位を取れるような仕組みを
来年以降の社会の動きに大学はどう変わるべきか。高橋学長は、「リベラルアーツ&サイエンス教育」「データサイエンス教育」「グローバル教育」の3本柱を掲げる。
「どのゼミに所属しても、卒業までにこの3つの教育全てが受けられるような体制にしていきたい。特にデータサイエンス教育はこれからのAI時代に重要だと思っており、将来的には武蔵大学で学びロンドン大学のデータサイエンスの学位を取れるような専攻設置も含めて考えていきたい」(高橋学長)
武蔵大の教育と実績は、旧制高校由来の少人数教育に根付いており、それはゼミを中心とする大学教育にとどまらず、その先にあるキャリア支援まで一つの理念で貫かれているのがすごいところだ。
少子化の時代だからこそ注目すべき大学なのではないか。
■提供:武蔵大学