いよいよ4月から「医師の働き方改革」がスタート!

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 医師の自己犠牲的ともいえる長時間労働によって支えられている日本の医療は今、その質や安全の低下が大きな問題となっている。

 そうした中、この4月から厚生労働省が推進する「医師の働き方改革」の新制度が施行される。この改革を日々、患者とじかに触れ合っている現場ははたしてどのようにとらえているのか、加治木温泉病院(鹿児島県姶良市)の夏越祥次院長に話を聞いてみた。

時間外診療を削減

 加治木温泉病院は1978年に病床数100床で開院。85年には、人工腎臓センターを開設し、350床に増床。
 その後、リハビリテーションを開始し、2002年には県地域リハビリテーション広域支援センターの認定も受けている。

 現在は、療養病床40床と介護医療院20床を「介護医療院おはな」へ移設し、一般病床97床、療養病床133床の230床と介護医療院60床 合計290床で地域医療に貢献している。
 
 夏越氏が院長として加治木温泉病院に赴任してきたのは今から4年前。夏越院長は当時からすでに医師の長時間労働に対して危機感を覚えていたという。

 そこで、2019年度から働き方改革関連法が順次施行され、医療機関で働く全ての人を対象に複数月平均80時間(休日労働を含む)などを限度とした時間外労働の上限規則が導入されたことを受け、よりよい医療を提供するための取り組みとして、まずは医師たちの勤務時間をきちんと管理し、その上で削減することに着手した。
 
 その一例がICカードの導入によるPCでのスケジュール管理、有給 休暇申請などを行えるようにしたことだ。これにより医師たちの勤務に対しての意識が改善され、労働状況の共有などのシステム化・見える化により働き方にメリハリが生まれた。当院の職員に対して行ったアンケート調査では約8割の医師が勤務環境を「改善できた」と評価し、効果は確実に上がっているといえそうだ。

 「ICカードの導入によるスケジュール管理以外にも、例えば患者さんやご家族への診療内容の説明を基本的に平日9時~18時、土曜日の9時~12時の診療時間内に行うこととしました。医師は特殊な職業であり、私が若い頃は24時間、365日患者さんとともに病気と戦うのが当たり前だと思っていました。しかし、世の中が変われば当然のことながら、考え方も変わってきます」

 「医療技術の進歩や患者さんのニーズの多様化等により、医師の仕事が複雑になり、睡眠不足や体調の変化などを押して業務を遂行することによる様々なミスや、通勤途上に交通事故を引き起こしてしまうなどといったアクシデントの可能性もあります。ですから、そうならないために、今こそ医師にも働き方改革が必要なのだということを患者さんやご家族の皆さんにもご理解、ご協力いただくことが何よりも必要ではないかと思います。そのためには、重複しますが医師たちは患者さんに精一杯寄り添って対応していきますので、患者さんにも診療時間内の来院や診療時間内での診療内容の説明を受けていただけるようにご協力をお願いしたいです」

医師の労働時間の量と質を改善する「タスクシフト」と「タスクシェア」

 医師の働き方改革を推進する上で忘れてはいけないのが「タスクシフト」「タスクシェア」という考え方だ。

 タスクシフトとは医師が担う仕事の一部を他の部署に移すこと、また、タスクシェアとは医師の仕事を複数の職種で共同化することを意味する。

 どちらも医師の労働時間を短縮させ、医療の質を高めるための施策として重要であり、こうしたいわゆる「チーム医療」が定着することで医師が効率的に治療に集中できる環境が整うことにもつながるはずだ。

 この点に関しては夏越院長も「医療というのは医師だけではなく、それを取り巻く看護師やリハビリテーション、レントゲン技師など多職種の協力が必要で、そういう人たちがいなければおそらく成り立っていかないでしょう。私はそうした人たち全体での医師を含む医療従事者の働き方改革と理解しています。今や医師が1人だけで診療に当たるという時代ではなくなりました。医師でなくてもできる仕事を、皆さんで分担してやっていくことはとても大事です」

 「特に私どものような回復期病院(脳血管障害や骨折の手術などのため急性期で治療を受け、病状が安定し始めた発症から1~2カ月後の回復期の状態にある患者を担当する病院)になると、在宅や施設の方も扱っていかなくてはなりません。そうなるとチームで診ていくことが基本になるのです」とその重要性を指摘している。

「主治医制」から「複数主治医制」へ

 これまで日本の医療は1人の医師が1人の患者を診る「主治医制」が主流であり、今でもなおそうした診療スタイルを取っている病院も少なくない。その点、加治木温泉病院では完全一人主治医制を廃止し「部分的複数主治医制」を導入している。

 「従来の主治医制では自分の担当している患者さんに何かあった場合、何時であろうと主治医は病院に駆けつけなくてはなりません。高齢の患者さんが多い当院では結構重篤な患者さんも多く入院されています。いつ病状が急変して呼び出されるか分からない状況や、昼夜問わず患者優先で業務遂行する主治医の負担は図りしれず、気の休まる暇も医学に対し勉強する時間もありません。

 そこで、平日の夜間、土曜日の午後、日祝日の日当直は院外の医師に依頼しています。また平日に主治医が研修等で不在でも代行医2名を決めて、代行医が責任をもって仕事をしていく体制にしています。これによって常勤医の超過勤務が少なくなり、負担はだいぶ軽くなったのではないかと思っています。そして、その結果が診療内容の充実につながっていけば嬉しいです」
 
 たしかに日々の激務によって疲弊した状態で患者を診察したり手術をしたりすると、ちょっとしたところでミスや油断が出たり睡魔が襲ってきたりして医療事故にもつながる恐れが出てくる。その意味でも働き方改革が進み、医師の労働環境がよくなることを期待したい。

改革に向けまだまだ課題はたくさん

 医師の働き方改革の施行まであと2カ月となった今、着々と準備を進めている加治木温泉病院。
 最後に夏越院長に新制度に向ける思いを聞いてみた。

 「私たち医師はエッセンシャルワーカーなので、ここまで仕事してこの先は明日でいいというわけにはいかない場合も少なくありません。例えば外科ですと10時間以上かかる手術も珍しくなく、その辺をどのようにチームワークを組みながら医師として働き方を改革していくか、医師の仕事時間をどう調整していくかということが大事ではないかと思います。いよいよ4月から医師の働き方改革がスタートしますが、課題はまだまだたくさんあり、一つ一つ考えていかないといけないでしょう」

 私たちの健やかな毎日を守ってくれる医師が大切な存在であることはいうまでもない。

 医師が働きやすい医療環境を維持できるよう、われわれも「診療時間内の受診」「いつもの先生以外の医療スタッフが対応することがある」ことについて、可能な範囲で協力や理解したいものであり、ひいては、そうしたことが今後も安心して病院にかかることにつながるのだということをしっかり理解しておきたいものだ。

「医師の働き方改革」.jp(厚生労働省)

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