五木寛之 流されゆく日々
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連載10838回 記憶の海の底から <5>
<b><span style=”font-size: 85%”>(昨日のつづき) ある時、編集者から昔のアルバムの写真を貸してもらえませんか、と言われて絶句した。 考え…
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連載10837回 記憶の海の底から <4>
(昨日のつづき) 加齢の不安の大きなものは、頭脳の衰えである。分析力とか総合力とかいったものよりも、いわゆるボケが気になるのが当然だ。 アルツハイマー病とまではいかないまでも、すべての面で知力…
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連載10836回 記憶の海の底から <3>
(昨日のつづき) あれは私が何歳ぐらいの頃のことだっただろうか。 当時、私たちは論山という町に住んでいた。母がその町の小学校の教師として働いていたのだ。父親は別な土地の学校教師として単身赴任し…
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連載10835回 記憶の海の底から <2>
(昨日のつづき) 人はいったい何歳ぐらいまで記憶の第一歩をたどれるものだろうか。 生れた時の産湯のタライの形を憶えているという人がいる。この世に誕生したその時からの記憶が保存されているというの…
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連載10834回 記憶の海の底から <1>
人間の記憶というのは不思議なものである。きのうまではっきり憶えていた事が、今日はなぜか思い出せない。 人名などが特にそうだ。 「ほら、あの人、えーと、なんで出てこないんだろう。顔や声まではっき…
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連載10833回 世相 遠眼鏡 虫眼鏡 <4>
(昨日のつづき) 服装の流行というものは、どれくらいの周期で変遷するものなのだろうか。 短い上衣、ピチピチの細いズボンは、もうずいぶん長く続いている。私が持っている70年代の服も、いつかまた使…
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連載10832回 世相 遠眼鏡 虫眼鏡 <3>
(昨日のつづき) 午後に目を覚ますと、ベッドの中でリモコンを使ってテレビをつける。 とりあえず1チャンネルのNHK。 この時間は国会中継をやっていることが多い。ぼんやりした頭でこれを見てい…
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連載10831回 世相 遠眼鏡 虫眼鏡 <2>
(昨日のつづき) 書店は現代人のオアシスである。 決まった本を購入するために書店を訪れることもあるが、目的なしに書店をのぞくことも多い。 展示してある近刊を手にとり、雑誌のページをめくり、…
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連載10830回 世相 遠めがね 虫めがね <1>
昨日からマスクをして外出することにしている。 私は子供の頃からマスクが嫌いだった。なんとなく正体不明の怪人になるような気がしていたのだ。しかし、このところマスクをしていないと周囲から警戒されそう…
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連載10829回 現代の「四苦」とは何か <5>
(昨日のつづき) 格言というものがある。昔から人びとの間で、言葉として言い伝えられてきた教訓である。かつては、それらの格言にしたがって生きていけば、まず大過なく生涯を過ごすことができた。 しか…
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連載10828回 現代の「四苦」とは何か <4>
(昨日のつづき) 民衆に現実から目をそむけさせて、日々の娯楽に熱中させることを「パンとサーカス」という。 「サーカス」にもいろいろある。オリンピックなど、本来の主旨はともかく、国際的なサーカスと…
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連載10827回 現代の「四苦」とは何か <3>
(昨日のつづき) これまで最大の話題だったのは、「老い」だったと言っていい。テレビも週刊誌も、老化について繰り返し特集を組んできた。 それが最近、死とか相続とかいったテーマに変ってきたのは、ど…
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連載10826回 現代の「四苦」とは何か <2>
(昨日のつづき) 四苦とは、いわゆる「生・病・老・死」の4つの宿命をいう。 しかし、これは人間一般の「苦」ではない。10代の若者たちにとっては、「老」も「死」も、はるか先の話だからだ。 し…
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連載10825回 現代の「四苦」とは何か <1>
高齢化の問題はすでに論議の段階を通りこして、誰の目にもあきらかな現実となった。 しかしそれにもかかわらず、以前は60歳あたりから高齢者扱いだったが、最近は70歳以上という感じである。 高齢者…
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連載10824回 夜行性人間の告白 <5>
(昨日のつづき) これまでにない異常なことがおこった。 なんと今日は午後6時に起床したのである。 これまで午前6時か7時には眠りについて、目覚めるのが午後の2時、というのが私の規則正しい健…
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連載10823回 夜行性人間の告白 <4>
(昨日のつづき) 深夜のラジオ番組といえば、旧ラジオ関東の『きのうの続き』というのがあった。 大橋巨泉の作ったコピーらしいが、「きのうの続きはまたあした」で終るフリートークの番組である。 …
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連載10822回 夜行性人間の告白 <3>
昔ばなしになるが、以前、TBSラジオで『五木寛之の夜』という番組をやっていた。最初は夜の9時、やがて深夜番組になった。当時、イントロのナレーションが、ちょっとした話題だった。九州弁のイントネーション…
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連載10821回 夜行性人間の告白 <2>
(昨日のつづき) 南方諸島の先住民のあいだでは、夜と昼についてこんな思想があるという。 昼は人間の時間。 夜は精霊の時間。 昼間は人間が活動し生活する現実の時間で、夜は想像力が目覚める…
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連載10820回 夜行性人間の告白 <1>
流行というものは、おそろしいものだ。 ラグビーで国中が盛り上ったと思えば今度は相撲ブームである。 徳勝龍の優勝には、だれもが驚いたことだろう。本人も地元もびっくりしたにちがいない。 私の…
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連載10819回 私の体験的養生訓 <9>
(昨日のつづき) 人生というものは、思うにまかせぬものだ。この歳になっても、あらためてそう思う。 努力が必ずもむくいられるものではない。しかし、努力はしなければならない。自分の健康に関してもそ…