五木寛之 流されゆく日々
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連載10877回 六世紀以来の変事 <1>
大阪の四天王寺といえば、創建以来1500年以上の歴史をもつ寺である。 聖徳太子の命によって建立されたといわれ、無宗派の寺として広く庶民に親しまれてきた。『百寺巡礼』という番組でその寺を訪れたとき…
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連載10876回 相続されない「歴史」 <5>
(昨日のつづき) 紀伊国屋書店がしばらく休業するという。東京都の勧告では、書店は休業の対象になっていないのだが、社会的影響を考慮しての決断だろうか。 カフェやレストランでの対策をテレビで識者が…
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連載10875回 相続されない「歴史」 <4>
(昨日のつづき) いま世界が揺らいでいる。超大国、アメリカと中国が大きく傾き、欧州諸国も戒厳令下のような有様だ。 施設封鎖、都市封鎖、そして国境封鎖と、世界各国が身をすくめて孤立を競っている。…
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連載10874回 相続されない「歴史」 <3>
(昨日のつづき) 私は日本国の敗戦を北朝鮮の平壌で知った。8月15日には、すでに平壌駅は南下する上級国民の家族でごった返していたという。 家財道具まで積み込んだ陸軍の重爆撃機は、次々と本国へむ…
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連載10873回 相続されない「歴史」 <2>
(昨日のつづき) カミュの『ペスト』がベストセラーになっているという。『ペスト』は『異邦人』とくらべて、すこぶる地味な読まれかたをしてきた作品だった。 私たちが大学生だった1950年代、仲間の…
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連載10827回 相続されない「歴史」 <1>
10日金曜日の読売朝刊。1面トップに<「大恐慌以来の不況」予測>という文字が躍っている。IMF(国際通貨基金)の専務理事が講演でそう語ったというのだ。 「大恐慌」というのは、言うまでもなく19…
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連載10871回 今なぜ『大河の一滴』か <5>
(昨日のつづき) いまの世の中をどう考えるか。 正直いってマトモではない。本気で正視するとため息しか出てこない現実だ。 しかし、考えてみよう。では、いつの時代が今とちがう<清く正しく美しい…
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連載10870回 今なぜ『大河の一滴』か <4>
(昨日のつづき) C・W・ニコルさんが亡くなった。古い友人が次々と先立っていく今日この頃だが、ほとんど自然な感じで受け止められるのは、自分が高齢のせいだろう。 ニコルさんとは、いろんなことがあ…
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連載10869回 今なぜ『大河の一滴』か <3>
(昨日のつづき) 数年前に新潮社から『マサカの時代』という新書を出したことがある。『マサカの時代』とは、なんとなく変な題名である。しかし、私の実感としては、やはり「マサカ!」「マサカ!」の連続する…
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連載10868回 今なぜ『大河の一滴』か <2>
(昨日のつづき) いよいよ非常事態宣言である。 戦後七十余年、はじめて国が主役の座に登場することになった。 きょう一日、終日、仕事部屋に閉じこもり一歩も外へ出なかった。こんなことは、私個人…
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連載10867回 今なぜ『大河の一滴』か <1>
私は新人の頃から、 「イツキは暗い」 と、言われてきた。本人はそうでもないのだが、書くものはたしかに暗い。筆致が暗いのではなく、トーンが暗いのである。 先ごろ新書で再刊した『人生の目的』な…
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連載10866回 新しい鬱の時代の始まり <5>
(昨日のつづき) いつも打ち合わせに使っているカフェが、午後6時に閉店するという。5時半がラストオーダーだそうだ。 あらゆる店や場所が早くクローズすることになった。客がいないのだから当然だろう…
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連載10865回 新しい鬱の時代の始まり <4>
(昨日のつづき) アフリカが危ない。イタリア、スペインに続いて、アフリカにコロナウイルスが蔓延しつつあるようだ。 まだ圧倒的な数字は公表されていないものの、実際には調査、確認が十分になされてい…
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連載10864回 新しい鬱の時代の始まり <3>
(昨日のつづき) 最初、楽観的だったコロナウイルス騒ぎだが、どうやらさらに深刻化してきそうな気配がある。 暖かくなればウイルスがおとなしくなる、などと最初は気楽にいわれていた。3月、4月、おそ…
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連載10863回 新しい鬱の時代の始まり <2>
(昨日のつづき) コロナ蔓延の勢いがとまらない。アメリカは驚くほどの拡大ぶりだ。国民的コメディアンだった志村けんさんの死去も報じられて、危機感は一層たかまるばかりである。 しかし、亡くなるのは…
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連載10862回 新しい鬱の時代の始まり <1>
むかし、といっても平成10年ごろに出した『大河の一滴』という本がある。 その中に<ラジオ深夜一夜物語>という章があって、私が当時<ラジオ深夜便>で勝手に喋った言葉が再録されていた。そんな雑文のな…
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連載10861回 「サクラサイタ」の憂鬱 <5>
(昨日のつづき) きょう26日(木)は、夕方6時から漫画家の倉田真由美さんとの対談。 同じ福岡出身とあって、最初から旧知の友人のように楽に話ができた。昨夜、お勉強のため、倉田氏の『だめんず・う…
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連載10860回 「サクラサイタ」の憂鬱 <4>
(昨日のつづき) この数日、新しい言葉をいくつも憶えた。 いわく<メガ・クラスター><オーバー・シュート><ロック・ダウン>などなど。 都市封鎖のことが話題になると、たちまちスーパーやコン…
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連載10859回 「サクラサイタ」の憂鬱 <3>
(昨日のつづき) どうやら東京五輪は延期になるようだ。 「一寸先は闇」とは、よく言ったものだ。将来の予測などなかなかできるものではない。とは言うものの兼好法師が言うように、予測せずに何かを為すこ…
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連載10858回 「サクラサイタ」の憂鬱 <2>
(昨日のつづき) どうやらアメリカはコロナウイルスで大変な騒ぎになっているらしい。ニューヨークは、まるで通夜のような静けさだとか。 打ち合わせに使っているホテルの喫茶ラウンジも、夕方にはクロー…