鷹の系譜
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<80>捜査していた人物が同一の偶然
その日の夜遅くになって、高峰と電話で話せた。特捜本部事件を抱えているので、やはり毎日帰りは遅いらしい。 「何だよ、こんな時間に」高峰は不機嫌だった。 「お前が帰って来なかったんだから、し…
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<79>三澤と市村に接点があったのは確か
一時間後、市村晴雄の正体が分かってきた。正体というほどでもない……普通のサラリーマンのようだ。会社も分かったので、海老沢は祥子を連れて、早速会いに行くことにした。 勤務先はオフコンを扱う会社…
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<78>三澤のメモ帳に殴り書きの跡
本部へ戻り、今の一件を報告する。他の刑事たちも、少ないながら手がかりを掴んできていたことが分かった。ただし、直接行方につながるものはない。唯一、喫茶店を出た後の時間に、近くの駅で目撃されていることが…
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<77>たぶん、千葉まで行ったんじゃないか
この時点で、匿名の「S」だった三澤の名前を公安一課の他のメンバーにも明かさざるを得なかった。貴重な情報源を失うことになる可能性が高いが、もはやどうしようもない。宮永を探すことも大事だが、三澤の身の上…
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<76>口の堅さは暴力団員と変わらない
事務所を辞して、海老沢はすぐに大森に電話を入れた。 「神田の西野?」 「宮永かもしれません」 「お前、神田の西野という名前がどこからきたか、知ってるか?」 「昔、機関紙に珍し…
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<75>「西野」の名に覚えはないか
「何か思い出しましたか」海老沢も座り直した。 「役に立つかどうかは分かりませんけど、帰る直前に、神田の西野さんという人から連絡があったら、すぐにポケベルを鳴らしてくれって言われました」 「…
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<74>約束に遅れそうだと言っていた
俵藤は、本当に三澤が誰と会っていたか知らないようだった。そうなると逆に気になってくる。さらに突っこんだが、俵藤は迷惑そうな表情を浮かべて首を横に振るだけだった。 「三澤は最近、危ない事件に首を…
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<73>刑事事件専門の弁護士は儲からない
三澤担当の事務員、俵藤は、まだ若い男だった。たぶん二十代の半ばぐらい。どことなく頼りなげで、海老沢は与し易しの印象を抱いた。 「三澤がいなくなった日なんだけど、彼が何をしていたか、予定を確認さ…
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<72>所長の室橋は徹底的な左翼嫌い
三澤の事務所へ行ったことは一度もない。しかし話は聞いていたので、どういうタイプの事務所かは何となく分かっていた。ベテラン――もう七十歳を超えている所長を筆頭に、五人の弁護士が所属している。刑事事件の…
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<71>何か面倒なことに巻きこまれたか
古谷がつき添ってくれて、地域課長の大川と面会した。 「通常の行方不明事案だろう」大川の言葉に熱はなかった。「いい大人なんだから、捜すといってもな……何か、事件に巻きこまれた可能性でもあるのか?…
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<70>かつてのライバルが同じ警視庁に
援軍をもらえなかったのは痛いが、嶋田祥子を押しつけられなかったので、海老沢としてはむしろほっとした。やたらと気合いが入って空回りするタイプだから……しかも本人はそれに気づかず、注意されると「一生懸命…
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<69>狙いは一ヶ所 皇居か
出勤してくるなり、海老沢のデスクの電話が鳴った。朝っぱらから誰だよ、と訝りながら受話器を持ち上げると、先日電話してきたタレコミ主の声が耳に飛びこんでくる。すぐにそれと分かったので、海老沢は名乗った。…
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<68>被害者の副業がトラブルの原因に
捜査会議では、高峰の報告に対して激しい意見が続出した。 「ちょっと論理が飛び過ぎじゃないか?」ベテラン刑事――係で最年長の本村が、まず疑念を呈した。「被害者は地上げには関わっていたかもしれない…
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<67>事件発生当時のアリバイは確か
特捜本部に戻り、二人はすぐに裏取りの作業に取りかかった。 「本気で市村を疑っているんですか」村田が疑わしげに言った。 「お前はどう思った?」 「まあ、多少は……怪しい感じはしないで…
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<66>埃にまみれるだけで儲けは少ない商売
「……もしかして、私を疑っているんですか」 「そういうわけではありません」高峰はさらりと否定した。「気になったら何でも聞くのが、警察官の習性なので」 「仙台です」 「仙台?」 …
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<65>質問に市村の顔が蒼くなる
「個人的にちょっと調べてみたんです」市村が認めた。「実態がないというか、どうもよく分からない。暴力団と関係あるかもしれませんね」 「もしもそうなら、警察に任せて下さい。地元で、何か具体的な被害が…
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<64>あんな店、さっさと売ってしまえば
「市村書店の近所で、地上げがあったと聞いています」高峰は本筋に切りこんだ。「お父さんは、その件で悩んでいたんじゃないんですか」 「そういう話はありました」市村の顔は暗かった。「親父に直接聞いたわ…
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<63>奥多摩の林道に車を止めて…
「NSソフト」の本社は、東京駅の八重洲口側にあった。特捜本部からの情報によると、「オフィス用コンピュータのソフト開発・販売会社」。何のことやらさっぱりだ。警視庁では、ようやくワープロが入り始めたばかり…
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<62>ここは古本の街であってほしい
問題の古書店「市村書店」は、酒屋から歩いて三分ほどの場所にあった。神保町と言えば古書店の町で、靖国通り沿いにずらりと店が並んでいる。市村書店はその中の一軒だったが、シャッターは閉まっている。 …
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<61>立ち退き料に一億八千万円
〈第四章〉地上げ屋 「千代田タウン開発」――またも聞いたこともない会社だった。 高峰はその会社の名刺を前に、児玉という男と話し合っていた。古くから神保町に店を構える酒屋の店主。六十絡みの…