デス・マーチ
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(17)永山先生のお嬢さんにお話が
「永山先生の行かれる場所に心当たりなどは、ありませんか」 正木は小島に尋ねた。 「どうでしょうか。ほとんど研究所とご自宅の往復だったと思いますね。趣味といったものも聞いたことはありません…
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(16)一つの新薬の開発に15年以上
小島は浅黒い顔の男だった。 三十過ぎだろうが、薄くなったごま塩頭のせいで四十半ばくらいに見える。どこか埴輪に似た顔つきだ。 目で挨拶をかわしただけで、名刺のやりとりをしないまま、正木…
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(15)拉致の目的は医薬情報か
正木は佐久間に状況を説明した。 「なにか盗まれたものがないか、わからないか」 「これだけ荒らされていては」 書斎に散らばる書物を目にしつつ、正木はこたえた。永山健治は、無断で研究…
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(14)永山健治の携帯が通じない
永山健治が失踪した。 その報せが開発部長の佐久間晋から入ったのは、翌日月曜の昼過ぎだった。 日曜日に娘の朱里が永山の住む目黒の自宅を訪問したことを朝のうちに電話で報告し、娘の調査もす…
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(13)ニュウカンじゃないのね
「なにかご用ですか」 振り返ると、つい背後に朱里が立っていた。右手には携帯を手にしたままだ。力を込めて握っているらしく、かすかに震えている。 だが、表情も声もつとめて冷静に落ち着いてい…
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(12)不動前駅のホームに永山の娘
不動前駅の多摩川方面へ向かうホームに立った朱里は、二児の母親とは思えなかった。 むろん、正木の目からという意味だが、歳相応とはいえ、すらりとした姿勢やきびきびした動作に、怒りめいたものが漲っ…
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(11)広い洋風建築の家にひとり暮らし
それから一日はなにも手がかりが得られなかった。 正木は毎日、永山が武蔵小杉の研究所を退社してから帰宅するまで尾行したが、大井競馬場に有給を取って行った以外に、特別な行動もなく、誰とも接触しな…
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(10)モグリの場立ちの予想を知りたい
喫茶店でモーニングをとり、少し時間をつぶして正木が向かったのは、大井競馬場だった。 きのう同様快晴で、今週末まで開催されている昼競馬には、客がかなり出ていた。すぐそばに海があり、吹きさらしに…
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(9)チャンスを手に入れた気が
「ともかく、なんらかの証拠が見つかるまで、今後も調査はつづけてもらう」 佐久間部長はそう告げたあと、思い出したようにつけ加えた。 「正体不明の男女二人は今後も接触してくるかもしれない。そ…
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(8)バイオ医薬品の研究開発に注力
金子製薬は今年で創業九十二年を迎える。 製薬会社の中でも老舗のひとつだった。日本橋に本社があり、全国に十カ所の支社を持っている。資本金は四百億円。従業員は一万四千人あまりである。 業…
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(7)これはきみとわたしだけの秘密だ
正木典夫は、また頭を軽く下げてあやまった。 「申し訳ありません。ロッカーにあったものについては確認できませんでした」 「状況的には仕方がないな。その連中に奪われていないとすれば、ロッカー…
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(6)で、ロッカーにあったものは?
「それで、どうなったのかね」 秘書を追い出したあと、温和な笑みを浮かべつつ、開発部長の佐久間晋はソファに腰をおろした。 背後から朝の陽射しが後光のように佐久間を浮かび上がらせる。 …
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(5)永山が取り出したのはロッカーのキー
永山健治に真っすぐ自宅へ戻られてしまえば、予想屋から受け取った品物が何なのか、わからないままになる。 ここまで突き止めたのだから、それはごめんだった。尾行していればいいというものではない。 …
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(4)競馬で擦った者たちの中に永山が
本日のレースが終わると、客の大半はうなだれて競馬場をあとにする。 夕暮れてきて、一段と冷え込み始めた中を、無料送迎バスに乗り、ふたたび現実に引き戻されていく。 一レースも取れずに懐も…
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(3)3連単のオッズは七千倍
正木典夫は、この一週間、退社してから帰宅するまで、ずっと永山健治を監視していたが、まるで成果はなかった。 それがきょうにかぎって有給を取った永山が大井競馬場にやってきた。何かあるとは思ったが…
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(2)永山がじっと予想屋に視線を向ける
あらためて正木典夫は予想屋の様子を観察した。 モグリだから、サンドイッチマンのように目立ってはまずいが、さりとてなにも看板を掲げていなければ、客に気づかれない。 なるほどと思った。 …
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(1)平日の昼間から競馬観戦か
大井競馬場の休憩所を出ると、永山健治は何気ない様子で裏手に歩いて行った。 正木典夫はそこまで見て取ってから、気取られないように距離を置き、そのあとについた。 一歩外に出ると、寒さが顔…