ジャングルジムとチューリップ
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(12)辛酸を舐めた小学校の2年間
どうやら自転車に乗った状態で追いかけっこをしていて、その勢いのまま公園を飛び出してきたようだった。拓也に肩を抱かれたまま呆気に取られていた彩絵は、一拍おいて大きく舌打ちをし、少年らが逃げていった方向…
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(11)いつか家族3人でこの公園に
「まあ、気楽なものだけどね。三歳と一歳の子どもがいる時短勤務の先輩が言ってたんだけど、育休から復帰するときに人事に事情を話せば、嫌がらせしてくる社員とは違う部署になるよう取り計らってくれるらしいし」 …
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(10)妊娠報告に先輩が冷たい態度
やっぱり私って、この上なく幸せな人間だ。 改めて噛みしめると同時に、彩絵の舌の上に、メープルシロップと卵液の甘みが広がった。子どもが生まれれば、こういうお洒落な店を気軽に訪れることはできなく…
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(9)古い価値観に囚われないでよね
やっぱり私って、この上なく幸せな人間だ──そう心の中で上機嫌に呟いた直後、彩絵の耳に、母のためらいがちな声が飛び込んできた。 「あの……彩ちゃん、念のため訊いておきたいんだけど……やっぱり拓也…
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(8)控えめで口数の少ない義父母
父方の祖母は、彩絵が三歳の頃に癌で亡くなっているため、記憶には残っていなかった。両親から話を聞く限り、なかなか保守的な昭和の女性だったようだから、もし生きていれば、彩絵と拓也が事実婚という形を取るの…
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(7)真新しいものはそれだけで価値
まったくそのとおりだ。彩絵にはこれまでのところ、ほとんど完璧な人生を歩めている自負がある。物価高だの増税だの年金縮小だの、世間の人たちはいつもお金のことで騒いでいるけれど、そんなことを気にしなくても…
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(6)彩ちゃんの人生は薔薇色よ
「もう病院で診てもらったの?」 「先週の土曜に行ってきた。赤ちゃんの形も心拍も、ちゃんと見えたよ」 「よかった! それが確認できたなら、ひとまず安心ね。もしかして、今日ランチに誘ってくれた…
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(5)社会的成功へと至るレールを約束
そこまで考えたところで、床にあぐらをかいてゲーム機のコントローラーを構えている夫の白いスウェットの肩に、薄い赤色の染みが点々と付着しているのに気がついた。 「ちょっとたっくん、これ何? 汚れて…
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(4)夜遅くまでゲームに興じるのだろう
花野井、という苗字に強い愛着のあった彩絵のことを、やはり拓也は誰よりも深く理解していた。氏名とはアイデンティティの重要な一部分で、国の規定によって強制的に変更されるべきものではない。姓の変更により生…
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(3)自分たちは世間の勝ち組
たまにSNSのアプリを開くと、家事や育児に非協力的な夫の愚痴を言う妻の投稿が回ってくるが、彩絵には無縁の話だった。そういう男しか選べなかったあなたの問題でしょ、と言ってやりたい。「嫁にくる」などとい…
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(2)拓也とはやっぱり価値観が合う
「一か月前から飲んでるよ。毎日欠かさず」 妊娠について拓也と詳細に会話するのは初めてだったが、彼がすでに自分と同等の知識をつけていることに驚いた。子どもを持つことを意識した段階から、インターネ…
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(1)夫婦双方にとって念願の妊娠
乳児遺体を公園の花壇に遺棄 二十三歳母親を逮捕 生後間もない乳児の遺体をN駅前の公園に遺棄したとして、県警は九日、会社員の女(23)を死体遺棄容疑で逮捕した。捜査関係者によると、調べに対し容…