演劇えんま帳
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劇作家・秋元松代の名作 舞台にみなぎるエロスと残酷と聖性
日本の演劇界を代表する劇作家・秋元松代には伝承伝説を題材にした土俗的な作品群があり、この「かさぶた式部考」も日本各地に伝わる「和泉式部伝説」を基に、社会の底辺に生きる人々の哀しみと魂の救済を描いたも…
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「水俣病問題」を通して浮かび上がる人間の矛盾と葛藤
脚本(詩森ろば)と演出(眞鍋卓嗣)と演技、美術、音楽、照明、衣装の絶妙なアンサンブル(調和)に加え、舞台に「目に見えない気迫」がみなぎった。 舞台は1980年代の東京。小さな印刷屋を営む安元…
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圧倒的な演技力が炸裂する「生と死とエロス」の輪舞
「浮標」「廃墟」「その人を知らず」「炎の人」といった重厚なセリフ劇で戦後演劇史に屹立する劇作家・三好十郎。創立80周年の文学座が取り上げるのは初めてで、3時間50分という大作ながら、まばたきをする間も…
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架空の国が舞台 日本が抱える問題が二重写しになる寓意劇
男4人の劇団に加入した男性劇作家・原田ゆうが脚本を担当。演出は読売演劇大賞上半期の演出家賞にノミネートされたシライケイタ。繊細な原田脚本、剛腕のシライ演出……2人の相性がピッタリと合う好舞台となった…
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お堅い俳優座が挑む不条理な笑い「転がる石に苔むさず」
「LABO」とは、本公演とは別に行う実験的な公演のこと。お堅いイメージが強い俳優座が、外部の作家を招いて徹底して不条理な笑いに挑戦した。 舞台はある町の高台。そこから見える町の風景が舞台手前に…
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危うい時代に立ち向かう 新劇の「覚悟」がみなぎる群像劇
東演、青年座、民藝、文化座、文学座の新劇5劇団が垣根を越えて結集、選りすぐられた総勢23人の俳優陣による3時間半の大作だ。 作者は巨星・三好十郎。演出は繊細かつダイナミックな演出で定評のある…
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ウクライナの悲劇を体現 八千草薫が魅せる圧倒的な存在感
共謀罪が成立し、軍靴の足音が空耳ではなくなってきた日本。戦争がいかに普通の人々を苦しめ、心に生涯消すことの出来ない傷を残すか。それはノーベル化学賞を受賞した本作の作者ロアルド・ホフマンによるこの自伝…
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劇団道学先生が送る ダメ人間たちへの心優しき応援歌
ペーソスに満ちた人間喜劇で幅広い世代に支持される劇団道学先生の結成20周年記念作。 主人公は還暦を過ぎた小説家、梶山太郎(青山勝)。「夜行列車」なる私小説で文学賞を受賞したものの、その後鳴か…
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スケールアップした「虚構性」で人間存在の深奥に迫る
日常生活と隣り合わせの異界を描きながら人間存在の深奥に迫る、ある意味“哲学的理系演劇”とも呼べる劇団・イキウメの新作「天の敵」。2010年初演の短編「人生という、死に至る病に効果あり」の長編化作品だ…
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「シェフェレ 女主人たち」の奔放自在な「女優力」
早世したオーストリアの劇作家ヴェルナー・シュヴァーブが1989年に発表した作品で、日本では2012年に劇団黒テントが初演した。その時に「やり残し感」があったという出演者の石井くに子が演出家、ヴェアチ…
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演劇の枠超えた360度ステージ 「髑髏城の七人」のド迫力
豊洲にオープンした新劇場「IHIステージアラウンド東京」のこけら落とし公演。キャパ1300人の円形客席が360度回転し、周りを取り囲むステージが場面転換するという斬新なシステム。発祥の地・オランダ…
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圧倒的なリアリティーで描く 無残な「青春の墓標」
2008年に公開された故・若松孝二監督の同名映画の舞台化作品。 1972年、長野県軽井沢の保養所「あさま山荘」にたてこもった連合赤軍のメンバーが警官隊と銃撃戦を繰り広げた事件はテレビで生中継…
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青年劇場「原理日本」 国粋主義者の狂気に近づく恐ろしさ
奇妙なタイトルだが、これは昭和初期から敗戦時まで言論圧殺の活動をした国粋主義者・蓑田胸喜(むねき)が創刊し、自身の思想実践の足がかりにした雑誌名に由来する。 蓑田のターゲットはマルクス主義者…
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二兎社「ザ・空気」 日本社会を覆う“戦前回帰”への警鐘
緻密な人物描写と批評性の強い作品で、名実ともに日本演劇界を代表する劇作家・永井愛(演出も)。その新作はタイトル通り、今の日本社会を覆う不穏な「空気」を題材にしている。 舞台は大手テレビ局の一室…
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「音楽劇メカニズム作戦」時代に抗う若者たちのエネルギー
タイトルは何やらB級特撮ドラマみたいだが、ドタバタコメディーの体裁を取った社会派音楽劇だ。舞台は、ある通信会社の組合分会。役員のなり手がなく、アミダクジで選ばれたのが、通称ダークホース(木場允視)、…
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劇団桟敷童子 「赦し」の祈りを込めた伝奇ロマン
主宰者・東憲司が生まれ育った炭鉱町や山あいの集落をモチーフに、社会の底辺で生きる人々を描いた骨太でワイザツな群像劇を得意とする劇団桟敷童子の新作「モグラ 月夜跡隠し伝」。これまでとはやや趣の違うファ…
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劇団民藝が描く 日韓で引き裂かれた柳宗悦の矛盾と希望
井上ひさしの後継者として、評伝劇などで目覚ましい活躍をしている劇作家・長田育恵の新作「SOETSU~韓くにの白き太陽」。 取り上げたのは大正から昭和にかけて活躍した民芸運動の提唱者である柳宗…
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こまつ座「木の上の軍隊」 苛烈さを増すオキナワの怒り
3年前に初演された舞台だが、時代の変化によって作品が放つメッセージがより強く感じられた。もちろん、沖縄を取り巻く状況は戦後ずっと同じで、変わったのは「本土」の人々がここ数年の辺野古移設問題、高江ヘリ…
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2つの時代に焦点 大正天皇は本当に暗愚の天皇だったか?
これは掛け値なしの傑作だ。 物語は、大正天皇の生涯を描きながら、明治・昭和という大正を挟む2つの時代の実相を照射する。 大正天皇といえば、巷間流布される奇妙なエピソードがある。帝国議…
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力なき正義は潰されるのか 原発事故と通底する水俣病の悲劇
公害問題の原点である水俣病が公式確認され、今年で60年。09年に「水俣病救済特別措置法」が成立したが、水俣病の認定基準や未認定患者救済策をめぐっては、今も各地で係争中であり、「終息」どころか、全面解…