五木寛之 流されゆく日々
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連載10980回 子供の頃に読んだ本 <承前>
高垣眸、という名前を思いだした。 早稲田出身の作家で、「少年倶楽部」で活躍した作家である。 『快傑黒頭巾』が有名だが、子供の私にとっては、なんといっても『まぼろし城』の作者として深く記憶に刻ま…
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連載10979回 子どもの頃に読んだ本 <5>
(昨日のつづき) 遠藤周作さんが言っていたことで、いまも憶えている言葉がある。 「子供に、あれを読め、これを読んじゃいかんなどと言ってはだめだ。好きなものを読ませておくのが一番だね」 小学生…
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連載10978回 子どもの頃に読んだ本 <4>
(昨日のつづき) そういえば、小学生の頃に読んだ本で思い出すのは『西遊記』である。 たぶん少年読物ふうにアレンジしたものだろうが、孫悟空は当時の私のアイドルだった。 漫画もあったが、それほ…
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連載10977回 子どもの頃に読んだ本 <3>
(昨日のつづき) そういえば、思い出したことがある。 あれは私が40代にさしかかった頃だろうか。いや、もっと前だったのかもしれない。 何かの会のあと、ホテルのラウンジでコーヒーを飲みながら…
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連載10976回 子どもの頃に読んだ本 <2>
(昨日のつづき) 母親も小学校の教師をしていた時期があって、自分の本棚にはいろんな本が並んでいた。 林芙美子の小説や、森田たまの随筆集などがあったのを憶えている。 森田たまさんの『もめん随…
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連載10975回 子どもの頃に読んだ本 <1>
記憶というのは不思議なものだ。 なんとか憶えようと手帖にメモまでとって頭に叩き込んだつもりでも、翌日にはすっかり忘れている。 そうかと思えば、なにげなく読んだ文章の一節が何十年も頭に残ってい…
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連載10974回 コロナの風に抗して <5>
(昨日のつづき) 「コロナも一段落したようですね」 と、ほっとしたような顔で言う人がいる。 そうだろうか。 たしかに街に人が出ている気配はある。走っている車も多くなった。テレビは政権与…
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連載10973回 コロナの風に抗して <4>
(昨日のつづき) 2日目の広島。きょうは7時30分に目が覚めた。午前7時30分である。昨年までの生活なら、やっとベッドに入る時間だ。 コロナの時代にはいって、宇宙のリズムが狂ったのだろうか。5…
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連載10972回 コロナの風に抗して <3>
(昨日のつづき) きょうはピカピカの晴天。午後1時にホテルを出て会場へ。 予定では2000名の会だったのだが、コロナの関係で1000名ずつ2日に分けて行うことになったのだ。 会場入口で熱を…
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連載10971回 コロナの風に抗して <2>
(昨日のつづき) きょうは広島へ行く。 今年にはいって新型コロナのせいで、3、4、5、6、7、8月と、計13件の催しが中止になっている。文学賞の受賞式あり、講演あり、研究会ありで、そのすべてが…
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連載10970回 「回想」のなかの人びと <1>
こんど中公新書ラクレで新しい本が出ることになった。『回想のすすめ』という「すすめ」シリーズの一冊である。 見本が届いたのでパラパラとめくってみると、日刊ゲンダイの『流されゆく日々』から7篇がピッ…
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連載10969回 コロナ時代の養生法 <5>
(昨日のつづき) 何度も同じことを書くようだが、私にとって「養生」は趣味であり「道楽」である。したがって命懸けでやるものではない。 きょうはなんとなく面倒だな、というときは、あっさり諦める。1…
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連載10968回 コロナ時代の養生法 <4>
(昨日のつづき) ためしに吸う息で口笛を吹いてみる。かすかな音が出ることは出るが、ほとんど雑音にちかい。 やはりちゃんとした音階を出そうと思えば吐く息だ。試みにどれだけ長く口笛を吹けるかをため…
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連載10967回 コロナ時代の養生法 <3>
(昨日のつづき) さて、釈尊の教えをまとめた『仏説大安般守意経』というお経がある。お経というのは呪文ではない。苦の世界に生きるノーハウを丁寧に説いたテキストだ。『大安般守意経』などと難しいタイトル…
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連載10966回 コロナ時代の養生法 <2>
(昨日のつづき) 私はいま厄介な問題を抱えている。左脚の不具合いである。 数年前から歩くときに痛みを感じるようになった。若い頃から健脚自慢で、足にはいささか自信があっただけにショックだった。 …
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連載10965回 コロナ時代の養生法 <1>
「養生」と「健康法」はちがう、というのが私の持論である。 どうちがうかは、べつに理論があるわけではない。ただなんとなく健康法というのは実利的なもの、という感じがある。それにくらべると、養生というの…
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連載10964回 無事これ名馬、とは? <5>
(昨日のつづき) 交通事故は必ずしも本人の責任ではない場合も多い。運、ということもたしかにある。 しかし、その何十パーセントかは注意すれば防げたかもしれないのだ。 たとえば風邪薬や催眠薬を…
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連載10963回 無事これ名馬、とは? <4>
(昨日のつづき) 一般ドライバーだけでなく、この国ではプロのドライバーにも問題は少くない。 病的に車間距離をとらない運転者がいる。それは一種の癖なのかもしれない。前の車にキスしかねない位に車間…
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連載10962回 無事これ名馬、とは? <3>
(昨日のつづき) 6・3SELの話の続きである。 この車はどこといって目立つところのないセダンで、ごく普通の乗用車のような外観である。後部トランクのうしろに、控え目に6・3SELとあるだけだ。…
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連載10961回 無事これ名馬、とは? <2>
(昨日のつづき) 米国大統領選もいよいよ盛り上ってきたようだ。バイデン陣営は、初の黒人女性副大統領候補を押し立てて、やや鮮度が高まったかに見える。人品骨柄、申し分ない知的なバイデン候補だが、いかん…