五木寛之 流されゆく日々
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連載10897回 回想の力に身をまかせ <5>
(昨日のつづき) 人は誰でも無数の回想の引き出しをもっている。ほとんど無限といっていい膨大な数の引出しだ。そこには無数の記憶がつまっている。 しかし、その引き出しを開けたり閉めたりすることなし…
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連載10896回 回想の力に身をまかせ <4>
(昨日のつづき) 辛かった時代のことを思い出すのは、すこしも辛くない。今はすでにそこをくぐり抜けてきているからである。 一箇のジャガイモを何人もの大人と奪い合ったことがある。体力にまさる連中に…
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連載10895回 回想の力に身をまかせ <3>
(昨日のつづき) 自分でいうのも気恥ずかしいが、私はどちらかというと逆風につよい人間である。追い風のときは、なんだか足もとがふらついて、自分でも後から恥ずかしくなるような振る舞いをしていることが多…
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連載10894回 回想の力に身をまかせ <2>
(昨日のつづき) 回想というのは、過去を思い返すこと、とされている。しかし、それはいわゆる「思い出」にふけることとは、どこかちがうような気がしないでもない。 『おもいで酒』などという昭和の歌謡曲…
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連載10893回 回想の力に身をまかせ <1>
このところほとんど外出しなくなった。 コロナウイルスの世界的流行のせいである。 それまで毎日、仕事の関係者と会ったり、月に何度かは各地の催しに顔を出したりしていた。外へ出て、人と会って、動き…
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連載10892回 コロナの五月が来た <5>
(昨日のつづき) 5月14日の新聞朝刊によれば、アメリカのコロナウイルス感染による死者数は、8万2000人に達している。トランプは前のめりで経済再建にハッパをかけているが、はたして大丈夫だろうか。…
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連載10891回 コロナの五月が来た <4>
(昨日のつづき) アメリカがなぜコロナ被害の最前列に立ったのか。限られた情報だが、数字を見るとなんとなくわかってくることがある。非白人、外国人労働者、低所得者層などに被害が多いことだ。これは誰が考…
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連載10890回 コロナの五月が来た <3>
(昨日のつづき) きょうの読売新聞で読んだのだが、シェークスピアが『リア王』を上演した1606年は、感染症の大流行の時期だったそうである。4カ月も劇場が閉鎖されたという。 『リア王』の中で、忘れ…
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連載10889回 コロナの五月が来た <2>
(昨日のつづき) きょうは午前中なんとなく霧がかかったような空模様だったが、午後からは青空になった。日の光を浴びて樹々の緑が鮮やかに目にしみる。 五月は生命のエネルギーをまざまざと感じさせる季…
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連載10888回 コロナの五月が来た <1>
この1カ月ほど、ほとんど人と会うことなく過ごした。これまで半世紀以上の文筆生活で、かつてなかったことだ。多い日は一日、3社以上の編集者と打ち合わせをしていたのだから大変な変化である。 ただ原稿だ…
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連載10887回 ニュース落穂拾い <2>
(昨日のつづき) きょうは新聞の休刊日。 なぜ各紙いっせいの休刊なのだろうと不思議に思う。全員そろって何かやる、一斉に行動する、というのが日本人はよくよく好きらしい。 あとはテレビにまかせ…
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連載10886回 ニュース落ち穂拾い <1>
さあ、明日から仕事だぞ、と張り切るわけにもいかない複雑な気分の5月である。 部屋にこもっているあいだに、しばらくはテレビに凝っていた。しかしBSだの、昔のドキュメント映像だのも見ているうちに、や…
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連載10885回 コロナ時代のテレビ <4>
(昨日のつづき) やはりマスクをつけて喋っていると、どうも自分の言葉がはっきりしない。 声というのは、その人間のエネルギーをそのまま反映するものである。朝、おきて声がちゃんと出るときは、一日ず…
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連載10884回 コロナ時代のテレビ <3>
(昨日のつづき) このところずっと考えていることがあった。 それは人間の値うちということである。最近はコスパなどという言葉がはやって、いろんなものにランクをつける傾向がある。 こんどのコロ…
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連載10883回 コロナ時代のテレビ <2>
(昨日のつづき) 問題発生といっても大した事ではない。要するに録画の際にマスクを着用してもらいたいという話である。 最初はちょっと戸惑うところがあった。私は眼鏡をかけている。そこに幅広のマスク…
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連載10882回 コロナ時代のテレビ <1>
4月26日、午後6時半、同行のI氏と共に日本テレビ麹町の番町スタジオへ。 連休の暮方の街には人影も少い。外出自粛のさなかにテレビ局にむかうのは、インターヴュー録画のためである。 こんな時期に…
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連載10881回 六世紀以来の変事 <5>
(昨日のつづき) 女優の岡江久美子さんがコロナで亡くなったことをテレビが各局きそって報じている。いい女優さんだったので、残念だ。 なんとなく峠をこして、多少、下火になったような印象のあるコロナ…
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連載10880回 六世紀以来の変事 <4>
(昨日のつづき) こんどのコロナ禍のいちばんの問題は、世の中の価値観が大きく変ることではあるまいか。 つい先ごろまでは「絆」ということが大きく語られていた。離れてしまった人々の心や関係を、ふた…
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連載10879回 六世紀以来の変事 <3>
(昨日のつづき) このところ新聞をよく読むようになった。毎日、すべての新聞を丹念に読む。 一紙だけを読み続けていると、どうしても頭がその新聞ふうになってしまう。私の場合、連載をやっている関係で…
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連載10878回 六世紀以来の変事 <2>
(昨日のつづき) 奈良斑鳩の法隆寺が参拝中止に踏み切ったという。創建以来、はじめてのことだと寺の人が語っていた。 事情はわからぬでもない。法隆寺にまいってコロナに感染したと言われては、困るだろ…