熟読乱読 世相斬り
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【レディはブルースを歌う】ビリー・ホリデイは公民権運動つぶしの当局にはめられたのか
ついこの間封切られた「ザ・ユナイテッド・ステイツVSビリー・ホリデイ」という映画、見ようとしていたのにボヤッとしているうちに公開が終わってしまった。 天才ジャズシンガーの名をほしいままにした…
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【内幕話の魅力】ハリウッドスターが書いた「ナマのゴシップ」には鳥肌
華やかな業界であれ地味なそれであれ、インサイダーが描く内幕モノにはつい食指が動いてしまう。以前に取りあげた「ゴミ清掃員の日常」とか「交通誘導員ヨレヨレ日記」などはその典型だ。また、前回の「日本の喜劇…
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【「お笑い」という修羅】小林信彦氏が大切にした〈ナマ〉感覚と芸人の体技
物心がついた4、5歳の頃、私の日曜夕方のルーティーンは、隣家にお邪魔し、そこでTV番組に夢中で見入る(私の家にはまだテレビがなかった)ことだった。隣家は私たち家族が住む借家の家主であり、私の遊び仲間…
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【脳梗塞という悪魔】小林信彦氏の闘病記はカフカ的迷宮だった
尊敬する人物の著作に親しみ、ひそかにその人を師と仰ぐ、といった意味で使われる「私淑」という言葉がある。私にも「私淑」する人物が何人かいて、中でも中学から高校・大学までの年月、生活のあり方そのものまで…
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【破片の威力】何かと話題のロシアの現代文学は「何でもあり」でキラキラと輝いている
ロシア文学と聞いて思い浮かべる作家といえば、まずはドストエフスキー、それからツルゲーネフ、トルストイ、ゴーゴリ、チェーホフといったところが一般的ラインナップだろう。しかしこの人たちは、日本でいえば江…
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【作家の「二枚舌」】ドストエフスキーがなぜ難解なのか、この書で分かる
NHKのEテレに「100分de名著」という番組がある。古今東西の古典的名著を取りあげ、その内容をもっとも理解しているとされる識者が縦横無尽に、しかもわかりやすく語るもので、勉強になる回がけっこうある…
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【善にも悪にも】鉄腕アトムになく鉄人にだけある不気味さと現代性
戦後生まれの少年(時に少女も)が熱狂したロボット漫画・アニメといえば、やはり鉄腕アトムと鉄人28号ということになるだろう。その後に登場した人間が乗り組むモビルスーツ型ロボット、たとえばゲッターロボ、…
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【未来のそのまた未来】「タイムマシン」に描かれた格差のディストピアの暗澹
かつて未来を描くSF小説において一大テーマだったロボットや人工知能(AI)は、いまやどんどん実用化されている。しかし、きっと人類の終焉まで実用化しないだろう、というSFのテーマもあって、「時間旅行」…
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【アンドロイドと愛】AIの驚異的な発達は人間にどんな未来をもたらすのか
先日ニュース番組を見ていたら、政治評論家・橋下徹氏のデジタルクローンが登場していた。なんでも橋下氏の過去の発言や著作などを1週間程度学習させたとのことで、完成度は5%程度らしい。たしかに少々とんちん…
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【進化と不死】愛する人の死を悲しむのは人間だけなのか
まことに月並みだが、門松は冥土の旅のなんとやらということで、新年早々「死」をめぐるお話を一席うかがわせていただきたい。素材は「動物学者が死ぬほど向き合った『死』の話」という本。邦題通り、動物学者でジ…
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【おとぎ話】愚直なまでの理想主義と正義感に男は浸ろう
以前、このコラムで文芸評論家の斎藤美奈子さんの「ハードボイルドとは男性用のハーレクインロマンスなのだ」というお言葉を紹介した。そこで今回は、年来私が愛してやまない、ハードボイルドを上回る究極の男性用…
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【因業爺の心変わり】クリスマスに「貧困は自己責任」という悪意は消えてほしい
もうすぐクリスマス。なにかとイキがる十代の頃には、クリスチャンでもない身でそんな騒ぎに加担するなんて、と白眼視したりしたものだが、人並みにクリスマスにデートなどするようになれば、そんな抵抗などどこへ…
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【妄想発リアル行き】アメリカ映画「ジョーカー」への奇妙な共感はなぜなのか
一昨年ヒットしたアメリカ映画「ジョーカー」を、先ごろ大学の授業で鑑賞した。以前からゼミ生の要望があったのだが、「京王線刺傷放火事件」の犯人がこの映画の主人公の服装を真似たせいで、なにか妙なタイミング…
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【「普通」という夢】「近頃の若い者は」と言いたくなったらこの本を読もう
このところ選挙があるたびに、若い世代の保守化が進んでいるという話題がマスメディアで取り沙汰される。たしかに、投票所の出口調査では、十代二十代(三十代も)の4割程度が自民党に投票しているらしい。だが、…
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【老後とは?】求められているのは「働き方改革」ではなく「活き方改革」
「老後」は、いつからなのだろう。なんでも、若い世代は「老後」と聞くと、「定年退職後」「年金をもらいだしたら」といった「社会的基準」を想定するらしく、反対にまさしく「老後」年齢の人々は、「身体が思うよう…
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【資本主義の行方】経済学の大筋が10日程度でわかる凄い本
経済は巨大な幻想の体系に過ぎない、などと半可通にうそぶいてみたりする私だが、経済オンチの自覚はしっかりあるので、周期的に経済に関する啓蒙的書物を手に取りたくなってしまう。「現代経済学の直観的方法」の…
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【「間」のダンディズム】井上順さんの初フォトエッセーは連ドラと同じようにホッとする
この5月から10月まで放映されたNHKの連続テレビ小説「おかえりモネ」。東日本大震災で被害にあった気仙沼出身の主人公のモネ=永浦百音が、人々の安全を守りたいと気象予報士への道を歩む、というなかなかに…
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【押すなよ!】文の意味と伝えたい意図が正反対のことがある
熱湯風呂のふちにまたがった半裸の上島竜兵さんが、〈「絶対に押すなよ!」〉と強く要求するお笑いトリオ・ダチョウ倶楽部の「ギャグ」。この反語的要求に残りのメンバーがシレッと反応せずにいると、焦れた上島さ…
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【お江戸の探偵】「半七捕物帳」で科学やデータではない"勘働き”にシビれる
前回ご紹介した「杉浦日向子ベスト・エッセイ」に収められた「うつくしく、やさしく、おろかなり」という文章で、杉浦さんは岡本綺堂作品への深い愛を吐露していた。江戸の町の〈平和な景色の中に、「逢魔が時」が…
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【粋を生きる】執着しない軽さ、啖呵を切る凄味、移ろいを受け容れる切なさ
漫画家で江戸風俗研究家の杉浦日向子さんにはじめてお目にかかったのは、たしか1992年のことだ。「日本文化デザイン会議」というイベントの講師同士だった、と覚えている。その後もそのイベントで顔を合わせた…