熟読乱読 世相斬り
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【アフター・ライフ】わたしたちの暮らしに「死体」はいろいろ役立っている
先日、あるCMを見た。シニア夫婦(夫役は、草刈正雄さん)が、東京・広尾あたりの道を歩きながら、「俺の方が先かな」「わたしの方が先よ」などと、他愛ない会話を交わしている。なにやら洒落たホテルのような建…
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【大学の未来】「オンライン」に逆戻りした苦境の大学は何処へいくのか
東京都に出された3度目の「緊急事態宣言」によって、私が働く大学も「遠隔」授業に逆戻り。4月から、大人数の講義以外は「対面」授業だったのが、すべてオジャンである。ほぼ1年半ぶりにキャンパスが学生諸君で…
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【寄せ集め】フランケンシュタインのパロディーを越えた圧倒的な重みと読後感
アメリカのバイデン政権は、アフガニスタンに駐留する米軍をこの9月に完全撤退させると表明した。そして、イラクの駐留軍も早晩全面撤退させるとの発表もしている。20年にもおよぶ中東での「対テロ戦争」に、な…
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【「人造」の真意】フランケンシュタイン原作が問う普遍的テーマ
新型コロナが「人造」だという「ウワサ」が、一時(今も?)世界中に広まった。科学によって生みだされた存在が人間に刃向かう、というこうした「物語」は、19世紀以降実にたくさん語られてきた。「フランケンシ…
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【不条理は友】「となりのカフカ」を読むとカフカの悪魔的イメージは一新される
先週、井伏鱒二の「白毛」を、〈カフカ的な匂いもする不条理〉などと記した。掲載後に、読む人によっては「難解」という風に取ってしまうかも、とちょっと心配になった。もちろん、そんな意味はまったくなくて、む…
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【悪人】井伏鱒二の「白毛」は隠微で手の込んだ自虐の極致
釣りをめぐる奇妙な味わいの小説はいろいろあるのだが、井伏鱒二の短篇「白毛」などは、なんとも片づかない気味悪さという点で出色だろう。岩波文庫の「川釣り」に収められたエッセー風味の作品で、昭和23年、井…
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【釣りで人生】ヘミングウェイを越えたハードボイルドな釣り小説
山形の高校を出てすぐ、「僕」はミュージシャンになる夢を抱えて東京にやって来た。だが、その夢はすぐに潰え、「僕」はその道をすっぱりあきらめ、しかし、〈ちっぽけなプライド〉のせいで故郷に帰ることができな…
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【ツツイズム・マグマ】水滸伝の次に筒井康隆の最新短篇集における「死」を語ろう
先週取り上げた「水滸伝」は、日本の文学に多大な影響を与えた。滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」はその代表だが、実は日本での「水滸伝」インスパイア系作品で№1だと私が思っているのは、筒井康隆の「俗物図鑑」だ…
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【巨悪はしぶとい】極悪非道の英雄たちが暴れる「水滸伝」が人気の理由
トイレに行く時、本は欠かせない。最近は、既読の何巻にもなる長い作品を読み返すのを習わしにしている。この2週間ほどは、「水滸伝」。お気に入りの駒田信二訳ではなく、未読の岩波文庫版(吉川幸次郎、清水茂訳…
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【恥としての包茎】男が男に仕掛けたハラスメントの歴史
戦後生まれの男性なら、思春期から青年期にかけてのどこかで、きっと一度は「包茎」という言葉におびやかされたのではないか。これがさらに「包茎・短小・早漏」というトリオになれば、その破壊力はいっそう甚大に…
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【「ついで」の効用】人類学者が注目する香港の魔窟コミュニティーのボスが格好いい
香港の尖沙咀駅からすぐのところに立つ巨大なビル「重慶大厦」。独特の複雑な構造をしているこのビルは、安宿が密集するバックパッカーの聖地であり、また香港返還前に取り壊された九龍城砦を引き継ぐ「魔窟」的扱…
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【宝物から汚物へ】生命とは循環を人糞の歴史を通して知る
本のタイトルというのは読み手を惹きつける大切な看板だから、インパクトの強さは大切な要素である。私が最近「これはスゴイ」と目を瞠った表題は、「ウンコはどこから来て、どこへ行くのか――人糞地理学ことはじ…
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【麒麟と数奇】長編歴史漫画に描かれた利休の高弟、織部の葛藤
NHKの大河ドラマを熱心に見る習慣はないのだが、先週最終回をむかえた「麒麟がくる」は、めずらしく3分の2ほど視聴した。特に、コロナによる撮影中断後は欠かさず見た。在宅時間が長くなって曜日感覚がズレか…
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【日常という楽園】誰もがいい人という環境で遊び、いたずらをし、不思議を味わう5歳
漫画のシリーズは、次々に新刊が出版されるものあり、何年も何年も待たされてやっと新しい展開にありつけるといったものありといった具合なのだが、ずっと待っていたいシリーズはそう多くはない。 そんな…
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【続・天誅】桜田門外の変から18年で暗殺者たちは変わった
物騒な話題だが、前週に続き「天誅」についてもう少し。司馬遼太郎の「幕末」に登場した暗殺者たちの行動や「思想」について、幕末維新の時代背景とともに時系列を追って細やかに教えてくれる本が、昨年の末に刊行…
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【天誅】殺人は殺人だが「暗殺」が内包する理不尽な魅力
アメリカの大統領交代劇は、とうとうトランプ支持派の議会乱入と死者の発生という惨劇に発展した。しかも、FBIによれば「公職者を拘束・暗殺する意図」をもって乱入した者もいるという。乱入して「暗殺」なんて…
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【生々しい観察】工事渋滞に出くわしてもイライラしない
その昔は、年度末になるとあちこちで道路の補修工事があって、嘘かホントか知らないが、年度内に役所が予算を使いきるためにやっているらしい、という噂だった。それが昨今では、四六時中そこらじゅう道路工事だら…
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【モチ性】モチモチネバネバびろ~んのルーツとミステリー
正月の食べ物と言えば、これはもう、雑煮であり餅である。いやいや、おせちがあるじゃないか、という反論は当然あるだろう。しかし、炎上覚悟の独断を言わせてもらうなら、おせちがなくてもガマンできるが、雑煮が…
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【万葉ポピュリズム】「令和」典拠を暴く歴史ミステリーのような学術書
このコラムは1年半前の4月、改元で「平成」が「令和」という新しい年号(元号)に変わる直前に始まったが、連載2回目で「令和」を話題にしたと覚えている。中国の書物ではなく日本の書物「万葉集」を典拠とする…
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【万葉の歌ごころ】実は昭和歌謡の匂いが色濃く漂う万葉集を味わおう
阿久悠は、高度成長期になるまで〈日本人とは、元来、歌えない国民だった〉と述べた。たしかに、マイクを持って歌謡曲を人前で、という文化はあの時代の発祥かもしれない。しかし、別種の歌い方の文化はそれ以前に…