五木寛之 流されゆく日々
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連載11954回 かくて今日も過ぎゆく <2>
(昨日のつづき) この半年あまり喉に腫れものができて、厄介なことになっていることは前に書いた。 単なる咽頭炎なのか、それとも上咽頭ガンのような悪性のものかはわからない。 おまけに最近、腫れ…
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連載11953回 かくて今日も過ぎゆく <1>
能登の豪雨被害の惨状を伝えるニュースのあとに、テレビは一転して大谷選手の快挙を報じている。パ・リーグはソフトバンクが制した。 視ているこちらは、感情の整理もつかないせまい世の中というものは──と…
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連載11952回 九十翁からの詫び状 <4>
(昨日のつづき) 先日の海老名市立中央図書館での講演について、前回、懺悔の文章を書いた。 すると、それと入れ違いに、主催者側からの<講演アンケート>という印刷物が自宅に送られてきた。 <まい…
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連載11951回 九十翁からの詫び状 <3>
(昨日のつづき) 午後4時半すぎに帝国ホテルのロビーに到着。 5時から『小説すばる新人賞』の選考会があるのだ。 このところ、いくつかの選考委員を退いたが、この新人賞だけは妙に愛着があって、…
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連載11950回 九十翁からの詫び状 <2>
(昨日のつづき) 60歳の壁、70歳の壁とかいっているが、その辺はまだ大したことはない。 80歳の壁をこえると、人間、すこし変った景色が見えてくる。 そして90歳をこえると、俄然、まわりの…
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連載11949回 九十翁からの詫び状 <1>
先週の金曜日、海老名市にいった。 中央図書館主催のトークイベントに呼ばれたのだ。 トークイベントといっても、要するにこぢんまりした講演会である。 平凡社から出したエッセイ集『新・地図のな…
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連載11948回 自分への暑中見舞 <5>
(昨日のつづき) きょうは文春本誌のための座談会。 『昭和万謡集』編纂作業の一環としての、意見交換の会である。 藤原正彦さん、片山杜秀さん、内館牧子さん、酒井順子さん、ジュディ・オングさん、…
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連載11947回 自分への暑中見舞 <4>
(昨日のつづき) 今週の『サンデー毎日』がおもしろい。 自分がささやかな連載をやっている雑誌をほめるのはナンだが、読むところがいくつもあった。 最近の週刊誌は、どうも羊頭狗肉というか、広告…
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連載11946回 自分への暑中見舞 <3>
(昨日のつづき) 雑誌『文藝春秋』で準備中の『昭和万謡集』は、昭和の<忘れえぬ曲><時代を象徴する歌>を選ぶ催しだ。不肖、私もスタッフの一員として参加している。 ちかぢか有識者を招いての座談会…
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連載11945回 自分への暑中見舞 <2>
(昨日のつづき) 悪いことは重なっておきるものだ。 これが私のモットーである。一つ何か厄介な問題が発生すれば、すぐに続いてさらに面倒なケースがおきることが多い。 逆に良いことは、それほど続…
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連載11943回 昭和戦後の歌をふり返る <5>
(昨日のつづき) 私が40代の頃のことだ。 ある新聞社に頼まれて大阪の美術館へいった。フランスの有名な近代画家の個展が大話題になっていた時のことだ。 その美術館は丘の上の高台にあった。壮麗…
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連載11942回 昭和戦後の歌をふり返る <4>
(昨日のつづき) こうして戦後から現在までの歌を展望してみると、あらためて昭和は歌の時代だったんだなあ、と思われてくる。 戦前、戦中の歌でも、まだうたわれている歌は少くない。しかし、昭和20年…
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連載11941回 昭和戦後の歌をふり返る <3>
(昨日のつづき) 『青い山脈』といっても、歌のほうはともかく、原作小説や映画については知らない世代もあるかもしれない。 あれは昭和24年頃のことだったと思う。私は学区制という戦後の政策で、地元の…
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連載11940回 昭和戦後の歌をふり返る <2>
(昨日のつづき) 9月1日付けの『産経新聞』15面特集に、<読者2000人が選んだ昭和の名曲>(歌謡曲・演歌部門/世代別)というリストが掲載されていた。 30代以下から80代以上まで、それぞれ…
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連載11393回 昭和戦後の歌をふり返る <1>
<昭和100年>への予震が少しずつ露わになってきた。 きょう、見るともなしにテレビを観ていると、昭和を代表する歌手のベストテンを選ぶ番組をやっていた。10位から順々に上位にむけて歌手の名前が発表さ…
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連載11938回 戦時中の夏の記憶 <5>
(昨日のつづき) 当時の小学生、中学生の愛読書は、マンガよりも少年読物の一連の小説だった。 人気があった作家の名前を幾人か思い出すことができる。 佐藤愛子先輩の父君にあたる佐藤紅緑や、冒険…
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連載11937回 戦時中の夏の記憶 <4>
(昨日のつづき) 戦争の時代、ほとんどすべてのジャーナリズムは国民の戦意発揚のために献身した。 いま大リーグの大谷選手のニュースが毎日ながれるように、メディアは戦況を大本営報道部と足並みそろえ…
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連載11936回 戦時中の夏の記憶 <3>
(昨日のつづき) 戦時中の軍歌、戦意昂揚歌のたぐいには名曲が多かった、といえば誤解を招きかねないだろう。 しかし、それは疑いもない事実である。軍国主義の風潮のなかで、相当の感情的バイアスがかか…
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連載11935回 戦時中の夏の記憶 <2>
(昨日のつづき) 昭和16年、それまでの小学校が国民学校と名前が変った。 小学生から国民学校生徒になったのだ。その年の12月8日に太平洋戦争が始まった。大東亜戦争と称される大戦である。 勇…
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連載11934回 戦時中の夏の記憶 <1>
猛暑と豪雨が続いている。 ゲリラ気象というか、予想をこえた気象変動が報じられて、落着かない毎日だ。 私たち昭和ヒトケタ派の生き残りにとって、8月は何より戦争の記憶が色濃い。 新型爆弾と称…