タクシードライバー哀愁の日々
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(16)他人様のお金を黙って懐に入れたら…「1万円札」をめぐる2つの思い出
古典落語で有名な「時そば」は、そば代を支払うときに何度も「いま、何時だい?」と尋ねて、そば屋の注意をそらしなんとかそば代をごまかそうとする客の話。幸いなことに私はそんな客に遭遇したことはない。 …
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(15)乗客との会話で“悲劇の人”を演じた自分にハッとした…今も胸に刻む初老の紳士の言葉
ご存じの方もおられるだろうが、タクシー業界ではお客を乗せている状態のことを「実車」と呼ぶ。長くこの仕事をやっていても、実車中のドライバーはそれなりに緊張を強いられる。なんといっても、ほとんどのお客と…
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(14)真面目に誠実に働いていれば小さな幸運が待っている
「雲助(蜘蛛助)」という言葉がある。最近ではめったに使われることがないから、とくに若い世代の人には馴染みのない言葉だろう。だが、ひと昔、いやふた昔前までは、タクシードライバーへの蔑称としてしばしば使わ…
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(13)「何度も聞くな、いつも使ってるんだ」と罵声…後日“怪物クレーマー”の職業知り愕然
タクシーがなかなか拾えないバブル景気の頃の話だ。無線室から連絡が入り、指定の場所に行くと、なかなかタクシーを拾えないお客が、さも自分が無線で呼んだかのように乗り込んでくるケースがあった。当然、本当に…
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(12)酔って、絡んできた美人ホステスさんの意外な言葉
「酒は百薬の長」といわれるが、まったくの下戸である私にはその実感はない。職場の同僚のなかには無類の酒好きもいたが、こういうタイプは自己管理に苦労する。なぜなら、勤務の前には厳しい呼気検査があり、これに…
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(11)台東区役所で乗せ途中下車3度、料金は3万円近く…「不思議で変なお客」が忘れられない
「今度のお客は、アブナイ客じゃなきゃいいな」 タクシードライバーをはじめたころは、手を上げるお客を見つけるたびに「お金になる」という喜びと同時に、そんな不安を覚えていた。私はいたって柔和な人間…
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(10)「宗教、政治、野球の話はしない」が原則…先輩ドライバーからもそう教わった
手を上げているお客がいれば、条件反射的にクルマを止めて乗せる。よほど異様な外見や行動の持ち主でなければという条件はつくが、ほとんどのタクシードライバーの基本だ。そして乗せたお客とドライバーの関係はま…
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(9)頑張って稼いできた「現ナマ」たけど…会社に戻ればただ「吐き出す」だけ
かなり以前のことだが、当時、ある20代の同僚がこんなことを言っていた。 「タクシードライバーって、鵜飼いの鵜みたいですよね」 朝、「さあ、今日も頑張るぞ」と気合を入れたときだった。その…
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(8)大きなトラブルや暴力沙汰は未経験だが…「見ず知らずのお客と密室で」という不安
「テメエ、なんだ、その口のきき方は!」「道が違うじゃねえか」などと悪態をつき、運転席の後ろを蹴り上げるお客。挙げ句の果てに、なんだかんだとイチャモンをつけて乗車料金を踏み倒して逃げていく……。 …
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(7)チケットをもらっておきながらそのお客はワンメーターで降りた
私の所属する営業所は乗務員(社内ではタクシー運転手をこう呼ぶ)の数は1000人ほど。比較的大規模の営業所だ。500台のタクシーが時間差で都心に向かって走り出す。ほぼ同じ方向にクルマを走らせるわけだ。…
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(6)タクシードライバーにとっての“アブナイお客”は「気持ちが悪い状態にあるお客」
タクシードライバーにはさまざまな「アブナイお客」がいる。暴力を振るう客、支払いでトラブルになるお客がその代表だが、まったく別タイプの「アブナイお客」もいる。それは「気持ちが悪いお客」だ。 勘…
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(5)昼食は「駐車取締員」の動きを警戒しながら…「女神様」のいるラーメン店
通常、朝7時に営業所を出て、休憩時間1時間を挟んで約16時間、運転席に座り続けるタクシードライバーは、食事のとり方に悩む。私のように都心を中心に働くドライバーは、とくにそうだ。その日の客の乗車状態に…
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(4)「あのバスを追っかけてその前に止めろ」と叫んだあぶない客
「運転手さん、あの車を追って!」 ちょっと古いが、舘ひろしや柴田恭兵のようなハンサムな刑事が車に乗り込んできて、警察手帳を見せてそう言う。テレビドラマなどではよく見かけるシーンだ。「正義の捕り…
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(3)人をハネた!「この野郎出てこい」とヤジ馬が私を取り囲んだ
「人身事故だけは絶対にダメ」 クルマのハンドルを握る人なら誰でもそう思うだろう。とくにタクシードライバーにとって人身事故は大問題だ。私が勤務していた大手タクシー会社には人身事故にかぎらず、事故…
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(2)「どうせやるなら大手」タクシー乗務員募集のポスターが私を勇気づけてくれた
「あなたの採用を決めました。おめでとうございます。×日に来社してください」 一本の電話がこれほどうれしかったことはなかった。 「いままで生きてきた中で、一番幸せです」 1992年…
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(1)親子経営の会社が倒産…借金に追われ家も失い、残ったのは「運転免許」だけだった
コン、コン、コンと助手席側の窓を叩く音。ガラス窓を開ける。 「恐れ入ります。ちょっと、トランクの中を見せていただきたいのですが」 笑顔だが、目は笑っていない。相手が3人の警察官となれば…