五木寛之 流されゆく日々
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連載11432回 身体は世界に連動するか <3>
(昨日のつづき) 身体は世界の情勢に連動するか。 要するに世界がどうあろうとも、個人の体の現状と関係がない、という考え方は正しいかどうかということだ。 もしも外界がどうあろうと、その人の体…
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連載11431回 身体は世界に連動するか <2>
(昨日のつづき) このところ、どうも体の調子がよろしくない。 あいかわらず膝関節の痛みは続いているし、股関節の変形症も不調のままだ。 それも当然だろう。これといった治療をまったく受けていな…
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連載11430回 身体は世界に連動するか <1>
きょうはひさしぶりで髪をカットしに行ってきた。 今年の春先から、ウクライナ状勢が緊迫するとともに、突然、髪の毛がバサバサと抜けはじめたのには驚いた。 これまで80有余年、頭を洗わないことを売…
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連載11429回 難民と棄民のあいだには <4>
(昨日のつづき) 村上豊さんのことを続けて書く。 当時の村上さんは、出版ジャーナリズムの世界で、ひときわ華やかな若きスターだった。 私より年下の世代であるにもかかわらず、画風にも、対人関係…
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連載11428回 難民と棄民のあいだには <3>
(昨日のつづき) 外地での敗戦直後の状況について書こうとしているところへ、村上豊さんの逝去が報じられた。難民の話はちょっとお預けにして、故・村上豊さんのことを少し書く。 村上豊さんは才能ゆたか…
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連載11427回 難民と棄民のあいだには <2>
(昨日のつづき) この連載コラムの前々回の欄に<この項つづく>として水を飲む練習のことを書いた。 しかし一夜明けると、どうしても言いたいことが胸につかえて、急遽べつな話を持ち出してしまった。ふ…
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連載11426回 難民と棄民のあいだには <1>
また8月がやってくる。 私にとって8月は、一年のうちで最も気の滅入る月である。理由はよくわからない。とにかく8月が近づいてくると気が重いのだ。 いろんなところから戦争や、敗戦や、戦後のことな…
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連載11425回 「水」を飲む練習から <1>
高齢者の死因には、肺炎が多い。 そのなかでも<誤嚥性肺炎>が少くないのは周知の通りだ。 食べものや胃の内容物などを誤って気道内に入れてしまうことで引きおこされる肺炎である。 この誤嚥とい…
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連載11424回 オオカミ少年の不在 <4>
(昨日のつづき) オオカミ少年がいなくなった。 「オオカミがくるぞ!」 「オオカミがきた!」 と、叫ぶ少年は、大衆の隠された願望の反射鏡である。彼が先走って人々をあおりたてているのではない…
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連載11423回 オオカミ少年の不在 <3>
(昨日のつづき) 私は昭和7年の生まれである。1932年だ。 この年は波瀾の多い年だった。 前年の満州事変のあと、満州国が建国宣言をしたのに続き、5・15事件がおこる。海軍将校らによって犬…
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連載11422回 オオカミ少年の不在 <2>
(昨日のつづき) オオカミ少年とは、危機を大袈裟に叫ぶ者のことのようにいわれるが、そうではない。彼は危機を熱望しているのだ。そして本人がそのことに気付いていない点に問題がある。 国内外の危機を…
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連載11421回 オオカミ少年の不在 <1>
動かないと体がナマる。 コロナの猖獗以来、ほとんど地方で講演をする機会がなくなったせいだ。 それまで頼まれれば、どんな不便な土地にでも出かけていた。それがかなりの運動になっていたのではあるま…
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連載11420回 言葉の持つ力について <5>
(昨日のつづき) 言葉を意図的にデフォルメして使うことは昔からあった。特に戦争とか災害に関しての表現が多い。全滅を「玉砕」と呼び、退却を「転進」と称したのは太平洋戦争の頃である。 当時の新聞の…
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連載11419回 言葉の持つ力について <4>
(昨日のつづき) アメリカを中心とする連合国軍と戦っているあいだ、国内で英語が忌避されたのは周知の通りである。 野球のボール、ストライクさえ日本語に直されたのだから、あとは推して知るべしだ。陸…
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連載11418回 言葉の持つ力について <3>
(昨日のつづき) 言葉には神秘的な力がある、と古くから日本人は考えてきた。 <言霊>というのがそれである。<言霊のさきわう国>などという文句もあった。 私は必ずしも古代の思想に共感する立場で…
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連載11417回 言葉の持つ力について <2>
(昨日のつづき) 文学賞の選評で<女流作家>という言葉をつかって注意されたのは、数年前のことだ。 『源氏物語』の昔から、女性の作家はめずらしくはない。あえて<女性>を強調する必要はないでしょう、…
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連載11416回 言葉の持つ力について <1>
安倍元首相が凶弾に倒れた報道の激震さめやらぬ中、数日前から発生したギックリ腰でトイレにも行けぬ有様。生まれてはじめて尿瓶というものの有難さを知った。 ベッドに寝たままテレビ各局をサーフィンする。…
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連載11415回 私の中の満州残影 <5>
(昨日のつづき) 私の机の上に、半ば錆びかかった1箇のペーパーウエイトがある。10センチほどの棒のような金属である。 よく見ると、それは<特急あじあ>号の機関車のミニチュアであることがわかる。…
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連載11414回 私の中の満州残影 <4>
(昨日のつづき) 満州に開拓民として入植したのは、日本人だけではない。ロシア人も多く満州に棲みついている。 数年前に岩波ホールで、満州に入植したロシア人たちの生活を記録映画のかたちで制作したも…
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連載11413回 私の中の満州残影 <3>
(昨日のつづき) 読みはじめてから1週間、まだ『満洲国グランドホテル』を読み終えていない。 そもそもこの本は、当世流行の速読、倍速読みなどはとうてい無理な一冊なのだ。丁寧に読んでいけばひと月か…