五木寛之 流されゆく日々
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連載11237回 ニュー・ノーマルの風景 <2>
(昨日のつづき) 先週末、NHKの放送センターへ出かけて、夜のラジオ番組の録音をした。 金田一秀穂先生がパーソナリティーをつとめる『謎解きうたことば』という夜の番組である。 ラジオのパーソ…
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連載11236回 ニュー・ノーマルの風景 <1>
今朝、ちかくの公園を散歩していたら、おなじく散策中の人たち何人かとすれちがった。 驚いたことに、それらの人たちが全員、下を向いて歩いていたのだ。 うなだれて歩いているわけではない。要するに手…
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連載11235回 対談は時代を映す <5>
(昨日のつづき) この原稿を書いている最中に、机が大きく揺れた。どうやら震度5程度の地震らしい。 こういう時は、あわてて外へ飛びだしたところでろくな事はない。揺れが一段落したところで、また原稿…
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連載11234回 対談は時代を映す <4>
(昨日のつづき) 今回、昔の『真夜中対談』を読み返して、当時の週刊誌の対談というのは、どうしてこんなに自由で面白かったんだろうと感慨をおぼえた。こういう会話が大新聞社の週刊誌に堂々とのっていたのだ…
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連載11233回 対談は時代を映す <3>
(昨日のつづき) 『真夜中対談』(文藝春秋刊)は、永六輔さんに始って、24人のゲストが名を連ねている。ひととおり列挙しておくと、 冨士眞奈美さんは、すでに紹介した。 ○永末十四雄(川筋気質と庶…
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連載11232回 対談は時代を映す <2>
(昨日のつづき) 永六輔さんとの対談は『真夜中対談』のシリーズのトップのゲストだった。 こちらがサービスしなくても、永さんのほうから面白い話をどんどん提供してくれる。サービス精神旺盛なのは冗談…
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連載11231回 対談は時代を映す <1>
<対談>というのは、表現の原初的な形態である。人は独白する前に、他人と話し合った言葉だけでなく、身振りや表情、また声色や笑いなどによっても相互に交流した。 <対談>の場、というものがある。その時、そ…
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連載11230回 「ボケの効用」について <5>
(昨日のつづき) 昨日、89歳になった。奇しくも石原慎太郎氏と生年月日が一緒だから、彼も同じ年令に達したのだろう。 「97歳、なにがめでたい!」 というのは、先輩、佐藤愛子さんのタンカだが、…
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連載11229回 「ボケの効用」について <4>
(昨日のつづき) 私がいろいろ教えを受けた先輩がたの中で、これは多少ボケが入ってきたな、と感じる人は、ほとんどいない。 かなり高齢のかたでも、喋ることはしっかりしていた。と、いうより、若い後輩…
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連載11228回 「ボケの効用」について <3>
(昨日のつづき) このところ新聞や雑誌を読んでいて気になるのは、活字の世界に対して、どことなく自信なげな雰囲気が行間に漂っていることだ。 メディアの栄枯盛衰は世の常である。 映画が登場して…
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連載11227回 「ボケの効用」について <2>
(昨日のつづき) 最近、週刊誌などで「ボケ防止に役立つトレーニング」などという記事を、よく見かけるようになった。 高齢化ナンバーワンのわが国では、国民のボケ防止も急務であるらしい。たとえば高齢…
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連載11226回 「ボケの効用」について <1>
<ボケる>という言い方は、なんとなく失礼な気がするところがあって、あまり気軽に口にできない感じがする。 しかし、アルツハイマー病とか、痴呆とかいうリアルな言い方は、どうも好きになれないのだ。まだし…
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連載11225回 続・先週読んだ本の中から <13>
(前回のつづき) べつに政府の「緊急事態宣言」に従順にしたがっているわけではないが、このところ完全に外出することなく、室内にこもって暮らしてきた。こうなると、本を読むか原稿を書くかしかない。食事の…
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連載11224回 続・先週読んだ本の中から <12>
(昨日のつづき) 佐藤愛子さんの最近のご本を2冊、読んだ。読みだしたら途中でとまらない。一冊は文庫本『九十歳。何がめでたい』(小学館文庫)で、もう一冊がハードカバーの『九十八歳。戦いやまず日は暮れ…
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連載11223回 続・先週読んだ本の中から <11>
(前回のつづき) 大沢在昌は不思議な作家である。大ベテランであるにもかかわらず、全然ペースが落ちない。すべての作家は、新人期、全盛期、円熟期と、3つの季節を通過してその季節を完結するのが常である。…
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連載11222回 続・先週読んだ本の中から <10>
(昨日のつづき) ジョゼフ・コンラッドの『ロード・ジム』(柴田元幸訳/河出文庫)と、『熱風団地』(大沢在昌/角川書店)をつづけて読んだ。時代もちがえばジャンルもちがう2作品だが、少しも変らぬ共通項…
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連載11221回 続・先週読んだ本の中から <9>
(昨日のつづき) 放哉にしても山頭火にしても、なぜ私たちは放浪遊行の先達に惹かれるのだろうか。 最近、また注目されだしたノマド的生き方への憧憬だろうか。それとも自由な個人生活に惹かれるのか。 …
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連載11220回 続・先週読んだ本の中から <8>
(昨日のつづき) 私ごとだが、戦後、引揚げてきてから、何年間かは縁故をたよって、あちこちで暮した。 師範学校出で、教員生活しかしらない父親は、闇ブローカーをやったり、密造酒の生産に手を出したり…
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連載11219回 続・先週読んだ本の中から <7>
(昨日のつづき) <死を生きる>と副題のついた『放哉と山頭火』にくらべて、対照的な山頭火本が『いつも隣に山頭火』(井上智重著/言視舎刊/本体2200円)の一冊だ。 徹頭徹尾、主観を押さえて客観描…
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連載11218回 続・先週読んだ本の中から <6>
(前回のつづき) 1週間(5回)で終るはずだった夏休みの読書感想文が、3分の1ほど今週に持ちこすことになってしまった。真面目に本の紹介だけしていればいいものを、つい横道にそれて雑談をしてしまう悪い…