五木寛之 流されゆく日々
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連載10738回 明治の演歌とラップ <3>
(昨日のつづき) 自由民権をとなえる政治青年・運動家たちの中から、さまざまな大衆運動が起こった。 昭和期戦前の大弾圧のあと、民芸運動、民謡ブームが起こったのと似ている。 演劇、歌、講談、な…
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連載10737回 明治の演歌とラップ <2>
(昨日のつづき) 演歌、という言葉も、いまや色褪せてきた感がある。テレビの『演歌の花道』あたりがその落日を飾る最後の光芒といっていいのかもしれない。NHKの紅白でも、年ごとに演歌の出番は縮小し続け…
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連載10736回 明治の演歌とラップ <1>
「敬老の日」を含めての3連休である。 インターヴューだの打ち合わせだののない3日間を、ほとんどベッドの中で本を読んで過ごした。 こういう時は、薄い本では困る。あっという間に読み終えてしまうから…
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連載10735回 明日の風は吹くのか <5>
(昨日のつづき) 今日は『小説すばる新人賞』の選考会。 夕方、編集部の女性と共に選考会の会場へ。 昨年の誕生日に選考委員の有志からプレゼントされたステッキをついて出席。 よくお似合いで…
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連載10734回 明日の風は吹くのか <4>
(昨日のつづき) 報道の力というものは、大きく報じるところにあるのではない。 むしろ小さくしか報じないところにあるのではないか。さらに言えば、報道しない黙殺にこそ、その最も大きな影響力があるの…
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連載10733回 明日の風は吹くのか <3>
(昨日のつづき) 『風に吹かれて』というボブ・ディランの歌が世界的に流行した時代があった。当時、私は金沢に住んでいた。 下駄をはいて兼六園を横切り、旧四高の赤煉瓦の校舎前を過ぎて、香林坊の書店を…
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連載10732回 明日の風は吹くのか <2>
(昨日のつづき) 情報社会というのは、さまざまな情報が氾濫して、どれが本当なのか見当がつかなくなる社会のことだ。 炭水化物批判が燎原の火のように広がった時期は、食堂やレストランでライスを残す光…
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連載10731回 明日の風は吹くのか <2>
日曜の夜、台風のニュースでテレビは大騒ぎだ。 いつもこういうニュースの時に感じるのは、報道するスタッフが、いかにも生き甲斐を感じているかのように躁状態になっていることである。本当に楽しくて仕方が…
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連載10730回 風の盆直前の富山へ <5>
(昨日のつづき) 土地というのは、結局は人だ。 その土地の人間との交友で、土地の印象は創られる。 大学時代の仲間にI君という男がいた。彼は滑川の出身だった。学生時代からパートナーがいて、彼…
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連載10729回 風の盆直前の富山へ <4>
(昨日のつづき) 私の場合、一般の講演は90分が定番だ。1時間半というのは、長いようで短い。もともと雑談が好きなのである。講演といっても学者先生のそれとはちがって、その場その場の成行きで喋っている…
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連載10728回 風の盆直前の富山へ <3>
(昨日のつづき) 富山は雨の予報だったが、有難いことに晴天である。 ホテルの窓際にさんさんと日光が降りそそいでいるので、裸になって日光浴。 日光浴によってビタミンDが作られるというから、き…
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連載10727回 風の盆直前の富山へ <2>
(昨日のつづき) 「先日の『流されゆく日々』で、山形行きの新幹線の車内でコーヒーを売っていないと書いてられましたよね」 と、出版の打ち合わせの後、鉄道ファンを自称する某編集者が言った。 「うん…
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連載10726回 風の盆直前の富山へ <1>
富山へ行ってきた。県民生涯学習カレッジの講師として呼ばれたのだ。頼まれれば越中でもどこでも出掛けていくのである。 富山のANAホテルが妙にざわついていた。そういえば、富山駅周辺からしてやたらと人…
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連載10725回 さくらんぼ駅から <5>
(昨日のつづき) 寒い。 真夏に寒いというのは変だが、最近のビルやオフィスはめったやたらと冷房がきいているのだ。どんなに暑い日でも、ジャケットを手離なさないのはそのためである。 この国の将…
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連載10724回 さくらんぼ駅から <4>
(昨日のつづき) この数日は、ほとんど臨戦体勢だった。9月下旬に出る『青春の門』第九部(漂流篇)のゲラ直しを終えたと思ったら、引き続き『小説現代』(江戸川乱歩賞特集号)のための原稿に忙殺されていた…
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連載10723回 さくらんぼ駅から <3>
(昨日のつづき) 河北町で90分の話をする。 創立10周年を迎える市民講座の10周年記念の催しだ。各地で市民大学のような催しは少なくないが、最近、廃止になるところが多い。そんななかで10年がん…
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連載10722回 さくらんぼ駅から <2>
(昨日のつづき) 車中で原稿を書く際に、どうしても欠かすことのできないものがある。私の場合はコーヒーだ。カフェインに弱いので、カップの3分の1ぐらいしか飲まないのだが、あの匂いが必要なのだ。まあ、…
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連載10721回 さくらんぼ駅から <1>
暑い。室内がエアコンで冷えているだけ、外の熱気がこたえるのだ。 きょうは午前9時半に起きた。ふだん午前中に起床することなどめったにない。昨日は午後4時に目覚めている。そうなると夜に早く眠りにつく…
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連載10720回 散るモミジのように <5>
(昨日のつづき) 人の長寿を決めるものは何なのか。 普段の節制か。バランスのとれた食事か。規則正しい生活か。 どうもそれだけでもなさそうだ。遺伝ということもあるだろう。時代ということもある…
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連載10719回 散るモミジのように <4>
(昨日のつづき) 『長命伝』を書きたいと喋ったら、親しい編集者が何人かの90歳を超えた長寿者の名前を教えてくれた。 あらためて90歳以上の長寿をまっとうされたかたがたの少くない事に驚く。 森…