著者のコラム一覧
碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

「にじいろカルテ」のドラマ全体に奥行きを与える“二重性”

公開日: 更新日:

 高畑充希主演「にじいろカルテ」(テレビ朝日系)には、スーパードクターも超絶技巧の手術場面も出てこない。舞台は山奥の診療所。医師と看護師、そして村で暮らす人たちの「日常」を描く、異色の医療ドラマだ。

 外科医の浅黄朔(井浦新)と看護師の蒼山太陽(北村匠海)だけだった「虹ノ村診療所」。そこに内科医の紅野真空(高畑)が加わる。しかし、彼女自身が難病を抱えていた。他者を救う医師であり、他者の助けを必要とする患者でもあること。その二重性がドラマ全体に奥行きを与えている。

 先週11日は、浅黄の過去が明かされた。妻の沙織(佐々木希)が事故に遭った時、救命活動にあたっていた浅黄は、「私は大丈夫」という彼女の言葉を信じて他の重傷者のケアを優先した。結局、沙織は命を落としてしまう。

 緊急の事故現場などでは、医師が治療の優先順位を決める。それが「トリアージ」であり、いわば命の選択だ。浅黄は自分の判断ミスで妻を死なせたことがトラウマとなっていた。だが、村では誰もが誰かに支えられ、同時に支えている。浅黄もまた仲間や村の人たちのおかげで、徐々に心の傷を癒やしてきた。

 突然発生した土砂崩れの現場。浅黄は軽傷だと主張するケガ人を叱り、病院へと送り込む。「人は、いつ、いきなり会えなくなるか分からない」という浅黄の言葉が、コロナ禍の現在につながる。

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