俳優・山口馬木也さん「藤田まことさんは『飲め、飲め』と息子のようにかわいがってくれた」
山口馬木也さん(俳優/52歳)
日本における最大の映画の祭典、第48回日本アカデミー賞が開催され、山口馬木也さんが主演した「侍タイムスリッパー」(安田淳一監督)が最高の栄誉、最優秀作品賞を受賞した。同映画は山口さんが優秀主演男優賞、第37回日刊スポーツ映画大賞・石原裕次郎賞と第67回ブルーリボン賞で主演男優賞を獲得するなど、24年の映画界の台風の目になった作品。幕末から現代にタイムスリップする侍を描く意欲作にチャレンジした山口さんに話を聞いた。
この取材のお話を受けることになった時は、あまり飲めないから大丈夫かなあとちょっと不安でした。ですから、あまり期待しないでくださいね(笑)。
その前に、最初に、どうして役者になったかをお話ししたいと思います。郷里の岡山を出て、大学には推薦で京都の美術系に行きました。ただ、あてもなく大学時代を過ごし、とにかく憧れだった大都会・東京でやりたいことを見つけたいと思いました。それで身の回りの物をすべて処分し、バイクで東京に向かいました。その頃はまだ役者になろうと思っていたわけじゃないです。ちょっと夢がない話になるけど(笑)。
東京に出て来てからは、食べていくために昼も夜も働く生活です。救われたのは外見、ルックスで褒められることが多かったことですね。役者になったのもそれがきっかけです。それでも、まだ役者になれるなんて思ってもいなかったですけどね。
目標がはっきりするのは紹介された最初のテレビの現場でみじめな経験をしたことです。たった2行程度のセリフをまったく言えなかった。絵や音楽のことは器用にできていたから、その時に何もできないことがすごいショックで。それまであった自信みたいなものが木っ端みじんに打ち砕かれた思いでした。それでなにくそと思って、役者を目指すようになったということです。
舞台とか、映画やテレビに少しずつ出るようになり、転機は30歳の時です。「剣客商売」(フジテレビ系)の出演が決まった。それまではなんとなく仕事に呼ばれているような状態が続いていましたから。「剣客商売」がなければ多分、食べていけなかったと思います。
僕の役は藤田まことさんが演じる秋山小兵衛の息子、大治郎です。98年に始まってから演じていたのは渡部篤郎さんでした。渡部さんは伊丹十三監督の「静かな生活」で日本アカデミー賞新人俳優賞と優秀主演男優賞を受賞し、すごい人気でした。後釜で出ることになった僕は名前も知られていないですから、ものすごいプレッシャーです。小兵衛の若い奥さんのおはるを演じるのは「おしん」で天才子役と言われた小林綾子さんです。渡部さんの相手役の三冬は大路恵美さんから寺島しのぶさんに代わりました。寺島さんも舞台の世界ではその頃から飛ぶ鳥を落とす勢いの名女優。小林さん、寺島さんとは同級生ですが、僕だけどこの人誰という感じですからね。最初の撮影で一緒にごはんを食べた時なんて、ごはんが喉を通らなかったですね。
起用されたのは僕が渡部さんの事務所の後輩だったというのがひとつ。それから京都の撮影所に一度行った時に、プロデューサーが池波正太郎さんの原作に出て来る大治郎の風体が僕に似ていると思ったこと。なんとなく僕でいけるかもということだったようです。