「はざまのわたし」深沢潮著
「はざまのわたし」深沢潮著
在日コリアンの家庭に生まれた「私」が初めてキムチを食べさせられたのは、6歳くらいの頃だ。ふだんは夕食時にいない父が珍しくいて、「キムチを子どもたちに食べさせろ」と母に命じた。母はキムチをみそ汁で洗って辛さを薄め、ご飯茶碗の上にのせた。
私は恐怖に震えながら、キムチを口に詰め込んだ。後に重い心臓病で亡くなった姉も泣きながら食べたが、すぐ吐いてしまい、父は母に「お前がちゃんと韓国人として育てないからだ」と怒って食卓をひっくり返した。16歳で単身、玄界灘を渡ってきた父は、子どもたちが韓国人として堂々と生きることを望んでいたのだ。(「第一話」)
2つの文化の中で生きる葛藤をつづるエッセー。 (集英社 2310円)