北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「土に贖う」河﨑秋子著
特異な作品集だ。舞台は北海道の札幌、根室、北見、江別。時代は明治から昭和まで。登場するのは、一度は栄えながらも衰退した産業に携わる人間たちだ。 たとえば表題作は、レンガを生産する工場で働く人…
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「いつかの岸辺に跳ねていく」加納朋子著
紹介するのが難しい本、というものがある。それは詳しく紹介するとネタバレになってしまうからだ。といっても、ある程度は触れないとその面白さを伝えられない。まったく困った本である。本書がそういう本だ。 …
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「暗殺者の追跡」(上・下) マーク・グリーニー著 伏見威蕃訳
グリーニーはホントにすごい。主人公コート・ジェントリーの乗るジェット機がイギリスの空港で襲撃される冒頭から、スコットランドの古城におけるラストの戦いまで、休む間もなく迫力満点のアクションが続くのであ…
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「ケイトが恐れるすべて」ピーター・スワンソン著、務台夏子訳
通常のミステリーを読み慣れている人が本書を読むと、あれれっと思う。通常のミステリーとは、殺人事件が起きて、それを警察が調べるというミステリーである。本書はそういう小説ではない。 殺人事件は冒…
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「から揚げの秘密」石井睦美著
食品会社に就職した樋口まりあ(通称ひぐま)を主人公にした連作集のパート2である。前作の「ひぐまのキッチン」も読ませたが、今回も快調だ。 樋口まりあは社長秘書として採用されるのだが、その重要な…
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「お願いおむらいす」中澤日菜子著
年に2回、春と秋に東京郊外の広大な公園の一角を借りて開かれる「あらゆる食のお祭り」、通称「ぐるフェス」を舞台にした連作集である。冒頭の一編は、主催者の話。とはいっても、「ぐるフェス」事業部に配属され…
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「血の郷愁」 ダリオ・コッレンティ著 安野亜矢子訳
イタリア・ミステリーである。残忍な手口の殺人が発生し、それを追いかける新聞記者たちの物語だ。ふくらはぎを噛みちぎり、内臓を抜き、死体のそばに針を置く、その残忍な手口は、イタリア犯罪史に名を残す19世…
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「へぼ侍」坂上泉著
明治10年の西南戦争を描いた小説は少なくないが、本書は新たな角度から描く小説だ。 主人公・志方錬一郎は、大阪の与力の跡取り息子だが、幼いときから丁稚奉公に出され商人として育った青年である。だ…
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「神獣の都 京都四神異譚録」小林泰三著
京都水盆、というのがある。京都盆地の地下深くに大量の地下水をためる自然のダムがあり、それを指す言葉だが、その地下水の量はほぼ琵琶湖に匹敵するという。その地下に眠る京都水盆で、朱雀がそっと体を横たえて…
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「令和元年 競輪全43場旅打ちグルメ放浪記」峯田淳著
漫画家・横田昌幸が書いた「競輪巡礼記」の話が本書に出てくるが、私、この本も読んでいる! ちょうど30年前に出た本だが、そのときは「全国50場」という副題がついていた。それが30年後に「43場」となっ…
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「死者の国」ジャン=クリストフ・グランジェ著 高野優監訳 伊禮規与美訳
2段組みのポケミスで、760ページを超える長編である。これはポケミス史上最長らしいが、意外に読みやすい。それは3~5ページ刻みでどんどん場面が変わっていくからだ。これほど読みやすいミステリーも近年珍…
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「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤著
ベストセラー作家はホントにうまい。読み始めたらやめられず、一気読みである。まず、構成が秀逸だ。 本書は、企業小説として始まるのである。大手自動車会社のエリート社員君嶋が横浜工場の総務部長に左…
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「訴訟王エジソンの標的」グレアム・ムーア著 唐木田みゆき訳
19世紀末のニューヨークを舞台にした物語である。描かれるのは、電流戦争だ。これはエジソンの会社がすすめる直流電流と、そのライバル会社ウェスティングハウスがすすめる交流電流の争いである。 直流…
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「緋い空の下で」(上・下)マーク・サリヴァン著、霜月桂訳
実話をもとにした第2次大戦秘話だ。舞台は1943年のイタリア。主人公は17歳の少年ピノ。物語の前半は、ナチスに追われて逃げるユダヤ人のアルプス越えを案内するピノの活躍を描きだす。これが大変なのである…
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「高校サッカーボーイズU―18」はらだみずき著
サッカーボーイズ・シリーズ高校生編がついに完結である。これで中学生編5巻、高校生編3巻の合計8巻が出たことになるが、その8巻目を突然いまさら紹介されたって、これから全部読むのは大変だと思われるかもし…
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「生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者」アンドリュー・メイン著、唐木田みゆき訳
はっとするほど新鮮な物語だ。主人公は、生物情報工学を駆使して事件を解決する天才教授セオ・クレイ。この男がとにかくすごいのである。 まだ事件が表面化していないのに、先に死体を発見してしまうのだ…
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「泥の銃弾(上・下)」 吉上亮著
2019年7月、東京オリンピックを1年後に控えた千駄ケ谷の新国立競技場で、東京都知事が狙撃される――という衝撃的な冒頭から、難民であふれる東京の混沌と、内戦で揺れるシリアの過酷な戦場を結ぶ迫力満点の…
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「火星無期懲役」S・J・モーデン著、金子浩訳
フランクは51歳の男だ。息子にドラッグを売りつけた保安官の息子を射殺した罪で懲役120年を宣告される。この男が火星に送られるところから物語が始まっていく。 この時代、刑務所も民間企業に委託さ…
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「隠居すごろく」西條奈加著
定年後をどうやって過ごすか、というのは年配者にとって重要な問題である。本書の時代背景は江戸時代だが、それはいつの時代でもかわらないのだ。 本書の主人公、嶋屋徳兵衛は6代続いた糸問屋の主人だが…
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「ザ・プロフェッサー」ロバート・ベイリー著、吉野弘人訳
登場人物は類型的なのにめっぽう読ませる小説というものが時にある。本書がそれだ。 主人公は、大学で法律を教えていたトム68歳。妻をがんで亡くし、卑劣な教え子の謀略で大学を追われ、さらに膀胱がん…