北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「花まみれの淑女たち」歌川たいじ著
70代、80代の婆さんたちが共同生活しているビルがある。年金や生活保護では公団の家賃も特別養護老人ホームの費用も払えない老人たちが、ババアはババア同士で助け合おうと、一緒に働き、一緒に暮らしているビ…
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「死に山」ドニー・アイカー著安原和見訳
世界一不気味な遭難事故〔ディアトロフ峠事件の真相〕、という副題のついたノンフィクションである。 60年経ってなお謎とされてきた1959年のウラル山脈で起きた遭難事故を、アメリカのドキュメンタ…
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「ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ(上・下)」 A・J・フィン著 池田真紀子訳
異色のミステリーだ。ニューヨークの高級住宅地に住む語り手のアナは、いつも双眼鏡で近所をのぞきまくっている。引っ越してきた人間がいると、ネットを駆使して調べまわる。引っ越していった人間の現在まで調べた…
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「僕は金になる」桂望実著
書名の「金」は、「かね」ではなく、「きん」と読む。つまり、将棋の「金」だ。ようするに、賭け将棋で暮らす破天荒な父ちゃんと、ぼくの物語なのである。 それでは「ぼく」も、賭け将棋の世界で生きる人…
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「対岸の家事」朱野帰子著
日本の労働戦士たちは朝早く家を出て、深夜まで帰宅しないから、家で何が起きているのかを知らない。その間、何が起きていて、妻が何と戦っているのかがわからない。それを描いたのが本書だ。家事と育児がいかに大…
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「赤い靴」大山淳子著著
不思議な小説だ。物語がどこへ向かうのか、途中まではわからないのだ。だから、とても新鮮であった。 7歳の誕生日の夜、母親が何者かに目の前で惨殺される。逃げ出した葵は、山中に住む老人に助けられ、…
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「鯖」赤松利市著
異色の漁師小説である。一本釣りの漁師たち5人組がいる。35歳の新一を除けば、あとの4人は50代半ばから60代半ば。みな、ワケありの男たちだ。 その5人が根城にしているのは日本海に浮かぶ孤島。…
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「カトク」新庄耕著
書名になっている「カトク」とは、過重労働撲滅特別対策班、の略だ。ブラック企業が社会問題化している中、違法な長時間労働を取り締まる目的で、東京と大阪の労働局に設置された特別捜査チームである。 …
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「さしすせその女たち」椰月美智子著
働くママたちの、夫に対する不満は凄まじい。食事のあとの皿洗いは夫がするという約束なのに、いつもしないで寝てしまう。育児にまったく協力してくれない、などなど。あまりに不満を述べる多香美に対して、友人が…
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協定(上・下)ミシェル・リッチモンド著羽田 詩津子訳
不思議な小説だ。ジェイクとアリスは、結婚早々、「協定」に署名する。その「協定」とは結婚を永続的なものにしようとする同志の集まり、というのだ。 悪いことではない。だから深く考えることもなく2人…
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「夏空白花」須賀しのぶ著
全国高等学校野球選手権(いわゆる夏の甲子園だ)は、大正4(1915)年に第1回大会が行われたので、それから毎年行われていたとするなら、今年で104回目を迎えるはずなのに、今年はちょうど100回目。計…
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「別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや」黒瀬陽著
中学2年生はバカである。マンガ雑誌の裏表紙にあった通販の「モザイク消し機」を購入するのだ。1回500円でアダルトビデオのモザイクを取る「ビジネス」を思いついたからだ。もちろん、その商品が届いても、モ…
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「天地に燦たり」川越宗一著
豊臣秀吉の朝鮮出兵は、これまで数多くの作品で描かれてきた。最近では、飯嶋和一著「星夜航行」もこの朝鮮出兵を描いている。本書は、第25回松本清張賞の受賞作だが、新人賞の応募作であることを考えれば、その…
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「スタンドアップ!」五十嵐貴久著
ボクシング小説である。リングに上がるのは沢口愛33歳。つまり、女子ボクシングの世界を描く長編である。それだけでも異色だが、いやあ、すごいぞ。 7年前に結婚した真利男のDVに、愛はずっと悩まさ…
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「仕事は2番」こざわたまこ著
「お仕事小説」とは、特定の仕事を通して何事かを発見していくドラマを描くもので、その仕事ならではの特殊性があればあるほど、望ましい。普通の小説と一線を画することができるからだ。 そういう観点に立…
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「罪人のカルマ」カリン・スローター著 田辺千幸訳
ジョージア州捜査局特別捜査官ウィル・トレントを主人公とするシリーズの第6作だが、このシリーズはどこから読んでも大丈夫なので、これまでの作品を未読の方でも安心して手に取られたい。これが面白ければ遡れば…
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「チンギス紀一 火眼」北方謙三著
なんだかぞくぞくしてくる。ついに、チンギス・カンの物語が始まったのだ。 「水滸伝」19巻の刊行が始まったのが2000年、それから「楊令伝」15巻、「岳飛伝」17巻と続いて、北方謙三の「大水滸伝…
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「ディス・イズ・ザ・デイ」津村記久子著
ワールドカップが開催中だが、サッカーにはいろいろあって、ワールドカップだけがサッカーではない。本書は、国内サッカーリーグの2部を舞台にした作品集だ。 しかも1部昇格の希望があるチームも登場す…
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「死後開封のこと」(上・下)リアーン・モリアーティ著、和爾桃子訳
創元推理文庫の新刊でこのタイトルだと、サスペンス・ミステリーを連想するかもしれないが、実はたっぷりと読ませる家族小説であり、壊れそうな関係をきわどく描く夫婦小説でもある。ミステリー的興趣はもちろんあ…
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「菩薩花」今村翔吾著
羽州ぼろ鳶組シリーズの第5巻である。これは「火消小説」だ。主人公は松永源吾。江戸の火消の世界がこれほど複雑であったとは驚く。定火消、大名火消、町火消が入り乱れているのだ。たとえば、士分の火消が太鼓を…