著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「隠居すごろく」西條奈加著

公開日: 更新日:

 定年後をどうやって過ごすか、というのは年配者にとって重要な問題である。本書の時代背景は江戸時代だが、それはいつの時代でもかわらないのだ。

 本書の主人公、嶋屋徳兵衛は6代続いた糸問屋の主人だが、隠居を宣言するところから始まっていく。この徳兵衛、隠居したからといって特に何をするわけではない。しかも長年連れ添ってきた妻は隠居所に同行せず、これまで通り家にいるという。特に妻と何かをするつもりであったわけではないが、なんだかアテが外れたような気がしないでもない。

 で、嶋屋からそう遠くないところに隠居所をつくって引っ越すのだが、すぐにやってきたのが孫の千代太。まだ8歳のかわいい盛りの男の子だ。幼い子の足でも行き来できるところに隠居所をつくったのが大正解。妻が来なくても孫が毎日通ってくれれば、それで十分だ。ところがこの孫、いろいろなものを連れてくる。最初は犬、次に猫。どんどん拾ってくるのだ。最後はとうとう人間まで拾ってくる。ボロ雑巾のようなものを身にまとい、顔も手足もまっくろの兄と妹。「飯、食わしてくれるっていうから、ついてきただけだ」と、態度もふてぶてしい。しかもその兄妹だけならともかく、孫の千代太はどんどん連れてくるから大変だ。

 というわけで、徳兵衛の隠居計画は大幅に狂いだすという長編である。しかしこういう生活も悪くないとの気がしてくる。

(KADOKAWA 1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ