本の森
-
「本にまつわる世界のことば」温又柔、斎藤真理子、中村菜穂、藤井光、藤野可織、松田青子、宮下遼著 長崎訓子絵
本にまつわる成語には「本を貸すバカ、戻す大バカ」なんてのがあるが、さて、他の言語の本にまつわる言葉というと――すぐには出てこないが、本書の目次を開くと、ロシア語、アラビア語、中国語、フランス語、英語…
-
「皮膚はすごい」傳田光洋著
前著「皮膚は考える」というタイトルを目にしたとき、単純に比喩と思ったのだが、読み進めていくうちに文字通りの意味だとわかった。皮膚表皮は、受精卵からの発生段階において中枢神経と同じ外胚葉由来の器官であ…
-
「大英帝国は大食らい」リジー・コリンガム著 松本裕訳
現代はグローバル経済の時代といわれるが、個別あるいはあるブロック内での経済活動が世界規模に拡大していったのは大航海時代以降の帝国主義がその端緒といっていいだろう。なかでも7つの海を制したといわれる大…
-
「この星は、私の星じゃない」田中美津著
ウーマンリブを牽引したカリスマ的存在として活躍していた著者は1975年にメキシコに渡り帰国後、鍼灸師となる。「あの田中美津が鍼灸師になったんだって」と戸惑いと驚きを含んだ話が伝わってきたのを覚えてい…
-
「測りすぎ」ジェリー・Z・ミュラー著 松本裕訳
いまや、ツイッターやインスタグラムのフォロワー数がその人の人気の大きな指標となっている。以前であれば、自身が発信した情報に対してどんな反応があるのかは見定めにくかったのだが、現在のSNSではそれが即…
-
「書物の破壊の世界史」フェルナンド・バエス著、八重樫克彦、八重樫由貴子訳
ホロコーストとは、ナチス政権が、第2次世界大戦中に行ったユダヤ人などの組織的な大量虐殺を指す。同政権はそれに先立ち、何百万冊もの本を破壊する“ビブリオコースト”を行っていた。まさに、ハインリッヒ・ハ…
-
「社会学史」大澤真幸著
岩波新書の内田義彦著「社会認識の歩み」が刊行されたのは1971年。高度経済の末期で公害が大きな社会問題となった時代である。この中で内田は、公害を社会科学の問題としてとりあげることができなかったのは、…
-
「ハリエット・タブマン」上杉忍著
以前本欄で紹介したコルソン・ホワイトヘッドの「地下鉄道」は、米国南部の黒人奴隷を北部の自由州へ逃亡させる「地下鉄道」と呼ばれる支援運動を舞台にした小説だが、本書はその「地下鉄道」で主導的役割を果たし…
-
「手で見るいのちある不思議な授業の力」柳楽未来著
本書の舞台は、筑波大学付属特別支援学校の生物室。登場人物は、中学部1年A組の生徒7人と、生物担当の武井洋子先生。同校では、中1の全盲の生徒たちの生物の授業を、前半は葉っぱをひたすら触って観察し、後半…
-
「オカルティズム」大野英士著
名探偵シャーロック・ホームズの生みの親、コナン・ドイルは晩年のほとんどを心霊術研究に費やし、超常現象に関する本まで書いている。また、発明王エジソンはブラヴァツキー夫人の神智学協会に加盟していたことが…
-
「ぼくの伯父さん 長谷川四郎物語」福島紀幸著
本を読むことが日常の一部になってから久しいが、まだ本読みの初心者だった頃に目にした言葉がいまだに自分の指標となっている。「仮りの世に家は借りてぞ住むべかり/本は買うてぞ読むべかりける」。長谷川四郎の…
-
「図書館巡礼」スチュアート・ケルズ著、小松佳代子訳
アレクサンドリア図書館といえば古代最大の知の殿堂といったイメージだが、本書には同館の本の収集方法が明かされている。アレクサンドリアの港に本を積んだ船が入港すると、その本は図書館に押収され、筆写し終え…
-
「胎児のはなし」最相葉月、増﨑英明著
夢野久作の「ドグラ・マグラ」といえば、日本のミステリー史上、いや、近代文学史上において、類を見ない奇書として孤高の光を放っている。その中に「胎児の夢」という言葉が出てくる。胎児は母の胎内で生物の進化…
-
「その部屋のなかで最も賢い人」トーマス・ギロビッチ、リー・ロス著小野木明恵訳
「自分よりゆっくり車を走らせているやつはバカで、自分より速いやつはイカレてると思ったことはないか?」 こう聞かれて、多くの人はうなずくに違いない。つまり、一口に「客観性」とはいっても、そこには…
-
「ナチスから図書館を守った人たち」デイヴィッド・E・フィッシュマン著羽田 詩津子訳
1941年6月、バルト3国のひとつリトアニアへドイツ軍が侵攻する。リトアニアの首都ヴィルナ(ビリニュス)は「リトアニアのエルサレム」と呼ばれ、多くのユダヤ人が住んでいた。ドイツ軍の支配下に入ったヴィ…
-
「犬であるとはどういうことか」アレクサンドラ・ホロウィッツ著 竹内和世訳
生物学の名著のひとつにユクスキュルの「生物から見た世界」がある。人間の目からではなく個々の生物それぞれが知覚する環境世界から生物を見ることを提唱した先駆的作品だ。犬や猫を飼っているとついつい人間にな…
-
「鶴見俊輔伝」黒川創著
戦後日本を代表する思想家といえば、吉本隆明と鶴見俊輔の名前を外すことはできないだろう。この2人の対談に「思想の流儀と原則」がある。「流儀」を重んじる鶴見と「原則」にこだわる吉本の違いが鮮やかに表れて…
-
「9つの脳の不思議な物語」ヘレン・トムスン著、仁木めぐみ訳
帽子と妻の顔との区別が付かず、妻の頭をつかまえて持ち上げてかぶろうとする――人間の脳が引き起こす不思議な現象を数多く紹介して、常識に揺さぶりをかけたのは「妻を帽子とまちがえた男」「火星の人類学者」な…
-
「いま、〈平和〉を本気で語るには 命・自由・歴史」ノーマ・フィールド著
先頃亡くなったドナルド・キーンは、第2次世界大戦以後、世界中のあちこちで多くの人が戦争で死んだが、日本人は1人も戦死していない、このことを日本人は忘れてはならないと言っていた。そこに日本国憲法第9条…
-
「加藤周一はいかにして『加藤周一』となったか」鷲巣力著
岩波書店創業100周年のアンケート「読者が選ぶこの1冊」の新書部門で、斎藤茂吉「万葉秀歌」、丸山眞男「日本の思想」に次いで第3位に選ばれたのが加藤周一の「羊の歌」だ。加藤周一が生まれたのは100年前…