「大英帝国は大食らい」リジー・コリンガム著 松本裕訳

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 現代はグローバル経済の時代といわれるが、個別あるいはあるブロック内での経済活動が世界規模に拡大していったのは大航海時代以降の帝国主義がその端緒といっていいだろう。なかでも7つの海を制したといわれる大英帝国の影響は大きい。19世紀初頭、イギリスが金本位制に移行し、以後世界経済の中核的な位置を保ち続けたことも、そのことを証明している。そうした大英帝国のグローバルな姿を食べ物の面から描いたのが本書だ。

 16世紀半ば、イギリス西部の漁師たちはアメリカ大陸の北東岸にあるニューファンドランドへタラ漁に出かけるようになる。そこで取った魚を塩漬けして空気乾燥した塩ダラは、それまでのノルウェーの風乾タラに取って代わり、大航海時代にはうってつけの長期保存の利く食料として需要が拡大し、ひいては英国海軍の発展にもつながっていく。

 そして17世紀には東インド会社の大型帆船が何百万ポンド分ものコショウやスパイスを持ち帰り、それまで高価で一部の嗜好品だったスパイスが一般の家庭にまで普及する。同様に、イギリス経由でもたらされた砂糖、紅茶などによって、ヨーロッパ世界の食文化は大きな変化を遂げていく。

 拡散するイギリス帝国主義は、それまで交流のなかった地域同士を結びつけ、固有の食文化を撹拌(かくはん)することにもなる。たとえば、南米のガイアナでインドのカレーが食べられるようになり、アメリカのサウスカロライナで米が作られるようになり、カリブ海のラム酒がアイルランドのお気に入りの酒となる……。まさにグローバルな世界が形成される。とはいえ、自国での食料生産をおろそかにするあまり、食料自給率が著しく低下するという弊害も。現代のグローバル社会を見直す良き教訓に満ちている。 <狸>

(河出書房新社 3200円+税)

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