「書物の破壊の世界史」フェルナンド・バエス著、八重樫克彦、八重樫由貴子訳

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 ホロコーストとは、ナチス政権が、第2次世界大戦中に行ったユダヤ人などの組織的な大量虐殺を指す。同政権はそれに先立ち、何百万冊もの本を破壊する“ビブリオコースト”を行っていた。まさに、ハインリッヒ・ハイネの「本を燃やす人間は、やがて人間も燃やすようになる」という予言が現実となったわけだ。

 しかし、これはナチスだけの暴挙ではなく、じつはこの世に書物というものが生まれると同時に、時の為政者たちによるビブリオコーストが連綿と続けられてきた。

 歴史上のビブリオコーストといえば、秦の始皇帝の「焚書坑儒」が有名だが、それよりはるか以前、粘土板に書かれた人類最初の書物が誕生した古代シュメールにおいて、戦争などによって破壊された文書は10万を超えるという。

 本書は、副題にある通り、このシュメールの粘土板から21世紀のデジタル時代までの5000年に及ぶビブリオコーストの歴史を詳細に跡づけたもの。アレクサンドリア図書館の破壊をはじめ、キリスト教の異端審問における弾圧、ソビエト政権下における検閲と焚書、近いところでは、2003年にイラクのバグダッドで国立図書館の蔵書100万冊が燃やされた。

 ボルヘスが言うように「書物は記憶と想像力の延長」なら、ビブリオコーストは人類の記憶と想像力の破壊にほかならない。本書に記される歴代の書物破壊はおぞましい限りだ。それでも世に本は満ちている。「古事記」に、イザナミがイザナギに、あなたの国の人間を1日1000人ずつ殺すと言ったのに対し、イザナギは、ならば1日に1500人ずつ生まれるようにすると言ったという挿話がある。書物もまた、破壊を被りながらも、それを上回る新しいものを生み出し続けているのだ。 〈狸〉

(紀伊國屋書店 3500円+税)

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