「社会学史」大澤真幸著

公開日: 更新日:

 岩波新書の内田義彦著「社会認識の歩み」が刊行されたのは1971年。高度経済の末期で公害が大きな社会問題となった時代である。この中で内田は、公害を社会科学の問題としてとりあげることができなかったのは、一人の人間が生きることの重さを社会科学が見失っていたからではないだろうかと自問している。そうした観点も踏まえて社会科学の歴史の歩みを語ったのが同書で、社会科学だけでなく、広く学問ということを考えるための導きとして今でも読み継がれている名著だ。

 それから50年。新たなる学問の水先案内となるだろうと思われるのが本書である。同じ社会(科)学の歴史を扱っているだけに、内田の本と共通するところが多い。内田が取り上げたマキャベリ、ホッブズ、アダム・スミス、ルソー、マルクスのうち、マキャベリを除いた4人は本書でも取り上げられている。共通する4人を読み比べると(大澤はスミスに余り紙幅を割いていないが)、それこそこの50年の時代の変化が透けて見えるようで興味深い。

 本書の読みどころは、マックス・ウェーバーを中心に、ジンメル、デュルケーム、パーソンズ、フーコー、ルーマンといった社会学の巨人たちの思想と方法論を詳細に説き、20世紀以降の社会学の歴史を見事に跡づけたことだ。著者は、ヴィム・ベンダースの映画「ベルリン・天使の詩」を引きながら、冷静なる観察者である天使という立場にいながら、同時にいかに人間を愛することができるのか――社会学という知が目指すのはそこではないか、という。そして天使と人間の両方になろうとしたのがマックス・ウェーバーである、と。

 歯応えたっぷりだが、読み終わったとき、そこには新たな知の地平が開けているにちがいない。

 <狸>

(講談社 1400円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  4. 4

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  5. 5

    遠山景織子の結婚で思い出される“息子の父”山本淳一の存在 アイドルに未練タラタラも、哀しすぎる現在地

  1. 6

    桜井ユキ「しあわせは食べて寝て待て」《麦巻さん》《鈴さん》に次ぐ愛されキャラは44歳朝ドラ女優の《青葉さん》

  2. 7

    江藤拓“年貢大臣”の永田町の評判はパワハラ気質の「困った人」…農水官僚に「このバカヤロー」と八つ当たり

  3. 8

    天皇一家の生活費360万円を窃盗! 懲戒免職された25歳の侍従職は何者なのか

  4. 9

    西内まりや→引退、永野芽郁→映画公開…「ニコラ」出身女優2人についた“不条理な格差”

  5. 10

    遅すぎた江藤拓農相の“更迭”…噴飯言い訳に地元・宮崎もカンカン! 後任は小泉進次郎氏を起用ヘ