孤独のキネマ
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ニコール・キッドマン『ベイビーガール』 客席を圧倒するM女の喘ぎ声
筆者は男だから、女性の心理はよく分からない。これまでの人生で「女は不可解なもの」「女とは何ぞや?」と首を捻ってきた。 そうした疑問になにがしかの答えを与えてくれたのがこの「ベイビーガール」だ…
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「光る川」高度経済成長期の1958年、少年は病母のために川をさかのぼり、大昔の悲恋に遭遇する
「現代人が忘れた自然への畏怖」――。山岳を舞台にしたドラマやドキュメンタリーを語るときに使われる月並みな言葉だが、この「光る川」を見ると、いつしか自然への畏敬の念を抱いてしまう。 時代は195…
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コンクラーベの裏側を暴いた『教皇選挙』 作品のメッセージをどう解釈するかでその人の知性が分かる
「コンクラーベ」とはバチカン市国の元首にしてカトリック教会の最高指導者であるローマ教皇を選ぶ選挙のこと。キリスト教徒が比較的少ない日本でも「コンクラーベで教皇が決まった」というニュースを耳にする。「根…
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『逃走』が描く逃亡犯・桐島聡 血まみれ爆破事件の「悔悟」と「逃げる理由」
団塊世代にとっては気になる映画だろう。昨年1月、新左翼過激派集団「東アジア反日武装戦線」のメンバーで、長らく逃亡中だった桐島聡が死亡した(享年70)。神奈川県鎌倉市の病院に末期がんの患者として入院し…
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和歌山毒物カレー事件の真相に肉薄した『マミー』 死刑囚・林眞須美は真犯人なのか?
この映画は昨年8月に公開され、小規模に上映されてきた。3月16日(日)、横浜の大倉山ドキュメンタリー映画祭で上映される。二村真弘監督のトークショーも開催される予定だ。 本作を初めて見たとき筆…
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『ANORA アノーラ』底辺ストリッパーが挑む、コワモテ用心棒&女たちとの壮絶バトル
昨年5月、第77回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞。現在、第97回アカデミー賞の作品賞、監督賞、主演女優賞など6部門にノミネートされている注目作だ。R18+指定から分かる通り、ベッドシーンが多い…
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中原中也、小林秀雄、長谷川泰子の三角関係…彼らはなぜ愛し、そして憎んだのか?
中原中也と長谷川泰子、小林秀雄――戦前のある時期、この3人は奇妙な三角関係でもつれ合っていた。詩人・中原中也のファンの中には中也と泰子がどのような経緯で結びつき、別れていったのか、小林はどんな人物だ…
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『敵』夢と妄想に取り憑かれた男の敵は…妻の「呪縛」か?
公開は今年の1月17日。2024年の第37回東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、東京グランプリ、最優秀監督賞(吉田大八)、最優秀男優賞(長塚京三)の3冠を獲得した話題作だ。1998年に書か…
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ミュンヘン五輪襲撃事件をテレビ報道陣の視点で描く緊迫の90分
60歳以上の人なら1972年に何が起きたかを覚えているだろう。この年の9月5日、西ドイツ(当時)で開催されたミュンヘン・オリンピックの選手村にパレスチナ武装組織「黒い九月」が侵入。イスラエル人の選手…
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トイレ掃除に打ち込む独身男の“悟りの境地”『PERFECT DAYS』ラストの笑みは何を物語るのか?
ヴィム・ヴェンダースがメガホンを取り、役所広司に第76回カンヌ国際映画祭の男優賞をもたらした話題作。渋谷区の17カ所のトイレを刷新するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」がきっかけで、当…
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北野武『首』 織田信長の「狂気」はパワハラ上司に苦しむサラリーマンにこそ見て欲しい
「残酷すぎる」「気持ち悪い」「ストーリーにまとまりがない」「何を言いたいのか分からない」――と厳しい評価を受けているのが北野武監督(写真)の時代劇映画「首」だ。製作費15億円を投じた大作である。 …
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「広島」「被爆者」――50年前の恋人を探す男がたどりついた「別れの真相」
人は老年に達し、残りの人生を意識したときに何をしたいと望むだろう。多くの人は過去に向き合おうとするのではないか。実は60代半ばの筆者も同じ。この数年、昔の友人・知人を訪ねてみたいという願望が高まって…
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「十階のモスキート」現役警察官が落ちたサラ金の泥沼地獄
内田裕也が「水のないプール」(1982年)に続いて映画主演を務めた問題作。崔洋一の監督デビュー作でもある。 舞台は千葉県君津市。交番に勤務する男(内田)は妻に愛想を尽かされて離婚し、悶々とし…
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銭ゲバ男が好奇心から巻き込まれた命からがらの「ゲーム」
「サービスデザイン推進協議会」の事務所の一件は面白かった。当初はテレワークという理由で事務所が閉じられていたが、野党議員が視察に訪れた日は数人が働いていた。ところが翌日はガードマンがいるだけで、またも…
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「デトロイト」白人警官&軍隊が黒人青年をリンチした一夜
黒人男性が警察官の暴行で死亡したことに抗議するデモが米国やヨーロッパなどで起きている。デモ隊の一部が暴徒化し、トランプ大統領は一時、軍隊の出動まで口にした。米国映画にはこうした差別による暴動を背景に…
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「シザーハンズ」男と木村花さんは集団ヒステリーの犠牲者
女子プロレスラー木村花さんの死が社会問題になっている。SNSの誹謗中傷に傷ついて死亡したとされ、政界ではネットの表現を規制する動きも出てきた。木村さんの悲劇から思い出したのがこの「シザーハンズ」だ。…
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「手紙は憶えている」認知症老人のアウシュビッツ復讐の旅
筆者はホロコースト(ユダヤ人大虐殺)の映画はなるべく見るようにしている。「シンドラーのリスト」「サウルの息子」「否定と肯定」などこれまで数多くの問題作が製作された。この「手紙は憶えている」はホロコー…
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「ドローン・オブ・ウォー」通勤型戦闘員が抱える苦悩
原題は「Good Kill」で、劇中では「一掃した」の意味。無人攻撃機を描いているため、この邦題にしたのだろう。米国にいながらアフガニスタンの上空を飛ぶ攻撃機を操縦する将校の物語。事実を基にしている…
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「チャーリー」世界笑わせた喜劇王の人生につきまとう悲劇
志村けんが急死し、テレビ各局が追悼番組を放送した。録画しておいたそれらの映像を巣ごもり生活の中で見ているうちに本作を思い出した。チャーリー・チャップリンは志村けんが尊敬する喜劇人の一人だったという。…
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「静かなる決闘」感染症で人生狂わされた青年医師心の叫び
新型コロナの蔓延で、医師や看護師ら医療従事者の子供が「学校に来るな」「公園は立ち入り禁止」と偏見の声を浴びている。大人までがネトウヨじみた妄言を吐いているのだ。日本人の愚劣化もここまできたかと呆れて…