『アンジーのBARで逢いましょう』御年91歳、草笛光子演じる謎の老女がもたらした「幸福の余韻」
『アンジーのBARで逢いましょう』4月4日(金)新宿ピカデリー/シネスイッチ銀座ほか全国公開
この数年の草笛光子の快進撃は目を見張るものがある。2021年に「老後の資金がありません!」に脇役出演して気丈ながら少しドジな老女を好演。その存在感が認められ、昨年の「九十歳。何がめでたい」では長い女優生活で初の映画単独主演を務めた。この作品がヒットし、本作「アンジーのBARで逢いましょう」を世に放つこととなった。ミステリアスでかわいいおばあちゃんを演じている。
舞台はある工業地帯の街。ここに風に吹かれるように白髪の女性(草笛)がやってきた。名前は「アンジー」。「実は私、お尋ね者なの」と名乗るアンジーはかつてティールームだったボロボロの建物を気に入り、管理を担当する不動産屋で賃貸の交渉を開始。いわくつきの物件だから考え直したほうがいいとの助言を受けながらも、バーを開きたいと押し切る。
アンジーは公園のテントで暮らしているホームレスに声をかけ、彼らの前職を見込んで建物の改装工事を依頼。日々を懸命に生きる街の人たちと静かな交流を始める。忌まわしい物件にほれ込んだアンジーを遠巻きに見ていた街の人々も、彼女の他人の言に左右されない凛とした生き方に触れ、魔法にかけられたかのように“自分らしく”変わっていくのだった……。
冒頭は薄暗いトンネルを歩くアンジーの姿。軽やかな歩調でトンネルを抜けて日の光を浴び、一陣の風を受けた老女はお化け屋敷のような不気味な物件を見つけ、壁の隙間から中を覗く。内部は地震の直後のように乱雑に散らかっている上に、ヘビまで住みついているというありさま。おまけに不動産屋の説明では、過去にここを借りた人たちはいずれも不幸に見舞われている。ガス漏れで死者が出るわ、破傷風で重症になるわ、交通事故に遭うわと続き、人が自殺したケースもあるという。
不吉な物件なので諦めたほうがいいと説得する不動産屋に対し、アンジーは「あそこが気に入ったのよ」と輪ゴムで乱雑に束ねた数百万円の札束を突きつける。ここから観客は「このばあさんは何者?」とストーリーに引き込まれるという仕掛けだ。
アンジーのバーの店名は「NOBODY'S FOOL」。その向かいの美容院を経営する満代(松田陽子)は自殺した夫の母親・美紗(沢田亜矢子)から嫌がらせを受け、満代の息子・麟太郎(青木柚)は個人的な悩みを抱えている。物件の大家で元市議会議長の熊坂(寺尾聰)は物件の借り手に不幸が続いたことに責任を感じているなど、登場人物はいずれも何かと戦っている。スピリチュアルにはまった梓(石田ひかり)は霊能者とともにアンジーの前に立ちはだかるのだ。
バーの改装工事を行うのは百田(六平直政)らその日暮らしのホームレスたち。お尋ね者のアンジーは当局に追われる身で、工事が進むにつれて強面の男たちが黒塗りのクルマでバーを監視するようになる。郊外の町の人間模様がミステリー仕立てに展開する物語だ。
ネタバレになるので詳しくは書けないが、この映画はふらりと現れた風来坊が人々の心の琴線に触れ、前向きな影響を与えるというもの。ラストを見て「そうきたかぁ」と何やら明るい気持ちにさせられた。