文庫で読む 医療小説
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「さまよえる脳髄」逢坂剛著
ミステリーにおいてよく扱われるテーマのひとつに刑法第39条がある。①心神喪失者の行為は、罰しない。②心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する――。精神障害者の刑事責任を減免する条項で、この適用の可否を巡…
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「イン・ザ・プール」奥田英朗著
名医といって思い浮かぶのは、ブラック・ジャックやドクターXの大門未知子のような飛び抜けた手技を持つ医者。あるいはDr.コトー診療所のコトー先生のように患者に寄り添う献身的な医者。そんなところが一般的…
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「祈りのカルテ」知念実希人著
現在放映中のTVドラマ「ナイト・ドクター」は、夜間専門のナイト・ドクターとして働く研修医たちの物語だが、そこで問題になるのは、彼らが研修期間終了後、どの診療科に進むべきかだ。本書の主人公も初期臨床研…
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「白衣の嘘」長岡弘樹著
昨年と今年の1月に続けてテレビドラマ化された「教場」「教場2」は、警察学校を舞台にした絶妙な伏線を駆使したトリッキーなミステリーとして高い評価を得ている。短編の名手としても知られる著者が、初めて挑ん…
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「本日はどうされました?」加藤元著
20年ほど前、保険金目当ての連続殺人事件で九州の女性看護師4人が逮捕された。「白衣の天使」と称えられることの多い看護師だけに、この事件は大きな話題を呼んだ。最近は男性の看護師も増えているが、基本的に…
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「晴れたらいいね」 藤岡陽子著
先のアジア太平洋戦争において、戦地に赴いて傷病兵の看護に当たった看護婦は日本赤十字の看護婦に限っても延べ3万数千人、そのほとんどが10代から20代の女性だった。本書は、戦時中のフィリピン戦線にタイム…
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「夏の災厄」篠田節子著
日本脳炎はウイルス感染症のひとつで、日本では1966年の2017人をピークに減少し、92年以降は毎年10人以下を推移している。本書は、その日本脳炎が変異しパンデミックを起こすという、現行のCOVID…
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「銀の猫」朝井まかて著
江戸時代の平均寿命は32~44歳といわれている。現代から見るとかなり短いようだが、これは0歳児の平均余命で、乳幼児の高い死亡率が全体を引き下げているのだ。事実、江戸時代でも60歳の平均余命はほぼ14…
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「病院でちゃんとやってよ」小原周子著
リハビリテーションとは、病気やけがなどの治療を受けた後、社会復帰のために行う訓練のこと。歩行訓練などの身体的なもののほか、聞く、話す、物をのみ込むといった、言葉や聴力、嚥下(えんげ)に関わるものもあ…
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「ナースコール!」 川上途行著
看護師にとってナースコールは必要だとはわかっていても悩ましいことも多いようだ。中でも多い悩みは、同じ患者が頻回にナースコールをする。大した用事でもないのにナースコールをするというもの。ある回復期リハ…
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「いつまでも白い羽根」藤岡陽子著
現在、就業看護師の総数は約122万人で、この10年ほど3万~3・5万人ペースで増えている(ただし、准看護師は減少気味)。看護師になるには、大学または看護学校など3年以上の専門教育を受け、看護師国家試…
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「わたしをみつけて」中脇初枝著
看護師には看護師と准看護師(准看)の2種類がある。看護師が厚生労働大臣発行の国家資格であるのに対し、准看は都道府県知事発行の免許。准看の業務内容は基本的に看護師と同様、患者のケアだが、それを行うに当…
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「聖なる怪物たち」河原れん著
世界で初めて体外受精により妊娠した児が生まれたのは1978年。日本では、生殖医療(体外受精、人工授精、顕微授精、胚移植)による出産は35歳以上の出産増加に伴い、99年の100人に1人から2018年に…
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「緊急の場合は」マイクル・クライトン著 清水俊二訳
1973年、アメリカ合衆国連邦最高裁判所は、妊娠中絶を女性の権利と認め、妊娠中絶を規制することを違憲とした。本書の刊行は1968年。「ジュラシック・パーク」やTVドラマ「ER」などでベストセラー作家…
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「千の命」植松三十里著
江戸時代の産科の流派として中条流と並んで有名なのが賀川流である。当時、妊婦が難産に陥ったとき、多くの場合は母子共に命を落とすことが多かった。せめて母体だけでも守ろうと、中条流は薬物によって胎児を堕(…
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「闇医者おゑん秘録帖」あさのあつこ著
江戸時代の中条流は、ホオズキの根、イノコズチやテッセンの根茎などの堕胎薬を主にする堕胎術で、多くの遊郭の遊女たちがこの術の世話になった。元は豊臣秀吉の家臣、中条帯刀を祖とする産科の流派で、時代を下る…
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「小説 透明なゆりかご」(上・下)橘もも著/沖田×華原作、安達奈緒子脚本
本書の主人公が勤め先の産婦人科の院長に1990年代の日本の3大死亡要因は何かと問われ、1位悪性新生物(がん)、2位脳血管疾患、3位心疾患と答える。学校なら正解だが、ここでは不正解だと言われる。答えは…
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「産声が消えていく」太田靖之著
戦後日本の出生数は、第1次ベビーブームの1949年の約270万人をピークに、途中第2次ベビーブームを挟んで漸減し、昨2020年は過去最低の約87万人。こうした出生数の低下に伴い、産婦人科を志望する医…
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「つるかめ助産院」小川糸著
現在、出産する場所というと、産科専門病院あるいは総合病院がほとんどだが、70年前の1950年には約96%が自宅・助産院(助産所)での出産だった。2014年における助産院出産は0・8%、自宅出産は0・…
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「江戸の検屍官 北町同心謎解き控」川田弥一郎著
いまでこそ検屍官を主人公としたドラマやミステリーは数多くあるが、その嚆矢ともいうべき作品といえば、パトリシア・コーンウェルの「検屍官」(原著1990年、邦訳92年)だろう。女性検屍官ケイ・スカーペッ…