「別れ際にじゃあのなんて、悲しいこと言うなや」黒瀬陽著
中学2年生はバカである。マンガ雑誌の裏表紙にあった通販の「モザイク消し機」を購入するのだ。1回500円でアダルトビデオのモザイクを取る「ビジネス」を思いついたからだ。もちろん、その商品が届いても、モザイクは全然取れない。目を細めたほうがマシなくらい、というから情けない。
しかし彼らを笑えないのは、こういうバカな青春を私たちもまた送ってきたからだ。「モザイク消し機」は注文しなかったが、その種の広告を見て、もしかしてホントにできるかも、と思ったことは一度や二度ではない。私たちもまたバカであったのだ。だから、他人事ではない。
本書は、「おどるポンポコリン」がテレビから流れていた1996年の広島を舞台に、中学2年生のイケとらんグループを描く青春小説である。友情と喧嘩と和解、初恋と性の目覚め――それは、どこにでもあるような青春で、とりたてて珍しいことがあるわけではないが、だからこそ、とてもいとしい日々といっていい。そのバカで、アホで、イケとらん毎日を、丁寧に描いていくので、この物語にどんどん引き込まれていく。
イケとるグループのリーダー丸ちゃんが、学外の不良チームに入ったらパシリにされていて、それを目撃した主人公たちに「言うなや学校で。俺がチームのパシリにされとったとか」と言うシーンは結構切ない。
第20回ボイルドエッグズ新人賞の受賞作だ。
(早川書房 1400円+税)