協定(上・下)ミシェル・リッチモンド著羽田 詩津子訳
不思議な小説だ。ジェイクとアリスは、結婚早々、「協定」に署名する。その「協定」とは結婚を永続的なものにしようとする同志の集まり、というのだ。
悪いことではない。だから深く考えることもなく2人はサインする。渡されたマニュアルも読んでない。その43ページには「配偶者が電話してきたら、必ず出ること」と書いてあったり、「毎月配偶者に贈り物をすること」とあり、それだけなら特に問題もないようなのだが、続けて「罰則」という項があり、「同月内に贈り物をしそこなうことは3級犯罪として扱われる」とあるから、おやおやっとなる。
ここでいう「犯罪」とはけっして比喩的なものではなく、本当に罰せられるのである。
四半期ごとに旅行に行かない者は2級犯罪だ。それに違反したアリスは、厳密な観察対象にするために手首にブレスレットをはめられる。GPSが付いているのか、音声モニターが内蔵されているのか、その詳細はわからないが、次には首輪をはめられるから、常識を逸脱していることは否めない。
すべては結婚を強化するためだというのだが、本物とそっくりの裁判にかけられ、刑務所に入れられ、拘束具を着けられるにいたっては、いくらなんでもやりすぎだろう。なんと退会も出来ないのだ。
本書は、ある夫婦が見舞われたその悪夢のような体験を描いていくが、読み進むうちに結婚とはいったい何なのだろうと考えてしまう。それがこの小説の狙いだろう。
(早川書房 各1000円+税)