「僕は金になる」桂望実著
書名の「金」は、「かね」ではなく、「きん」と読む。つまり、将棋の「金」だ。ようするに、賭け将棋で暮らす破天荒な父ちゃんと、ぼくの物語なのである。
それでは「ぼく」も、賭け将棋の世界で生きる人生を歩むのか、と思うところだが、そうはならない。両親が離婚して、「ぼく」は母ちゃんの元に残されるのである。出ていったのは父ちゃんと姉ちゃんだ。そうやってばらばらになりながらもけっして離れず、折に触れては会い続ける家族の、40年を描く長編である。
「ぼく」は普通の高校生になり、普通の大学生になり、普通のサラリーマンになるが、まともに働かず、ギャンブルにあけくれる父ちゃんの性格は変わらない。将棋の強い姉ちゃんに賭け将棋をやらせて暮らしているのだ。
姉ちゃんは将棋の天才だが、将棋以外のことは何も出来ない。地味で真面目な母息子と、自由きままな父娘だ。で、何か困ったことがあると、「ぼく」が呼び出される。そういうヘンな家族の風景が絶妙に描かれていくのでいったい彼らはどうなるんだろうと、どんどん引き込まれていく。
後半の展開を紹介したいところだが、読書の興をそいでしまうのでぐっと我慢。離れていても家族なのだ。性格が違っていても家族なのだ。その真実を、本書は鮮やかに描いている。だから最後には、どっと涙がこみ上げる。いい小説だ。桂望実の傑作だ。 (祥伝社 1500円+税)