北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「傍流の記者」本城雅人著
新聞記者小説である。舞台となる東都新聞社はどちらかといえば政権寄りの新聞で、社内的にも政治部が強い。そういう会社における社会部記者を描くのが本書だ。 東都新聞社の社会部史上最高の同期といわれ…
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「Team383」中澤日菜子著
「ママチャリ・グランプリ」は富士スピードウェイで実際に行われているレースである。そのレースをモデルにしたのが本書。ひとチーム5~10人の構成で、1台のママチャリを使って8時間乗り続けるというものだ。い…
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「あやかし草紙」宮部みゆき著
小説を読むということは本来、とても愉しいことだ。あるときはまだ見ぬ地に案内され、あるときは自分が見過ごしていたことの意味を教えられる。読書が愉しいのは、そういうふうに書物の中に多くの発見があるからだ…
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「ピラミッド」ヘニング・マンケル著 柳沢由実子訳
刑事ヴァランダー・シリーズの第10弾だが、これまでの作品を未読の方にぜひおすすめしたい。 スウェーデンの警察小説としては、1960年代のスウェーデン社会を描いたマイ・シューヴァル&ペール・ヴ…
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「ふたりみち」山本幸久著
野原ゆかり67歳は、函館五稜郭近くで後期高齢者の客を相手に4坪半のスナック「野ばら」を経営している。彼女は元歌手である。芸名はミラクルローズ。レコードは7枚しか出したことがない。あとは細々と歌手活動…
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「徴産制」田中兆子著
徴産制とは、日本国籍を有する満18歳以上、31歳に満たない男子すべてに、最大24カ月間「女」になる義務を課す制度である。2092年、国民投票により可決されて本書が始まっていく。 なぜこの制度…
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「エヴァンズ家の娘」ヘザー・ヤング著 宇佐川晶子訳
恋人との生活に疲れたジャスティーンは、2人の娘を連れて湖畔の別荘にやってくる。 その別荘は大叔母ルーシーが残してくれたもので、彼女は64年前に妹の失踪、父親の自殺と相次いで悲劇が起きて以来、…
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「完パケ!」額賀澪著
うまいな、額賀澪。大学の卒業制作の映画を撮ることができるのは、たった1人。監督志望の安原と北川は、シナリオコンペで対決する。どちらが勝つかはすぐに明らかになるが、一応読んでのお楽しみにしておく。勝っ…
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「ワン・プラス・ワン」ジョジョ・モイーズ著 最所篤子訳
ノーマンがかわいい! トーマス家で飼われている老犬だが、毛むくじゃらで、いつもよだれを垂らし、おならが異様に臭い大型犬である。一緒に車に乗ったとき、あまりに臭いので「死んじゃう!」とタンジーが叫ぶと…
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「室町繚乱」阿部暁子著
何げなく読み始めたらやめられなくなった。13歳の少女透子が髪を切って少年の格好になり、乳母と2人で敵地に乗り込んでいくというストーリーは、特に目新しいものではない。しかし、この長編にどんどん引き込ま…
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「沸点桜」北原真理著
第21回の日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作である。ハードボイルドである。この新人賞受賞作で、ハードボイルドで、女流作家ということで、第10回の海野碧著「水上のパッサカリア」を連想するのは当然だ。…
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「サイレント・スクリーム」アンジェラ・マーソンズ著、高山真由美訳
異色警察小説の登場である。何が異色かというと、ヒロインの圧倒的な個性の爆発に、クラクラしてしまうからだ。すごいぞ。 そのヒロインとは、ウエスト・ミッドランズ警察の女性警部キム・ストーンだ。3…
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「騎虎の将 太田道灌」(上・下) 幡大介著
江戸城を造った男、太田道灌を描く長編である。物語の背景となるのは、関東管領山内上杉憲忠の暗殺から始まる享徳の乱だ。要するに関東を舞台にした武士たちの覇権争いである。 足利幕府は京にあり、将軍…
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「浮き世離れの哲学よりも憂き世楽しむ川柳都々逸」坂崎重盛著
川柳は俳句と同様に五七五だが、季語や切れ字などのルールに縛られず、自由な表現が許されるもの。都々逸は七七七五。和歌よりも少ない文字数の短詩型文芸のひとつで、主に人情・風俗をうたう俗謡を起源とするもの…
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「アルテミス」(上・下) アンディ・ウィアー著 小野田和子訳
人類初の月面都市「アルテミス」を舞台にした長編である。従ってSFではあるけれどミステリーの読者にも読んでもらいたい。これはそういう長編だ。 なぜなら、メインストーリーが、ある破壊工作だからで…
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「蒼き山嶺」馳星周著
迫力満点の山岳小説だ。面白さがぎっしりとつまった長編だ。 このジャンルには新田次郎という偉大な先達がいて、20年ほど前には、夢枕獏の「神々の山嶺」という超傑作もある。しかし、それらに続く一群…
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「JKハルは異世界で娼婦になった」平鳥コウ著
ウェブ上で公開されて話題になった作品が書籍化されるというのは昨今珍しくないが、これもそういう一冊だ。 ただし、こちらは中身も異色。女子高生が交通事故に遭ったら異世界に飛ばされてしまい、そこで…
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「犬から聞いた話をしよう」椎名誠著
椎名誠は世界を旅してきた作家である。その旅の記録は、数多くのエッセー&紀行文として残されているが、椎名は写真家でもあるので世界各地で撮った写真が、それらのエッセー&紀行文に収録されている。旅の記録と…
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「血のペナルティ」カリン・スローター著 鈴木美朋訳
いやはや、すごい。読み始めたらやめられず、最後まで一気読みだ。話は一見、シンプルに見える。なぜなら拉致された母親を救出する物語だからだ。ただ、それだけだ。複雑なことは何もない。それでもたっぷりと読ま…
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「僕らだって扉くらい開けられる」行成薫著
超能力者たちを描く連作集だ。ただし、超能力の持ち主は、その能力を手にしたことを喜んではいない。なぜなら、たとえば会社員の今村心司は1日1回だけ使える念動力(テレキネシス)を持っているが、触れなくても…