著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「さしすせその女たち」椰月美智子著

公開日: 更新日:

 働くママたちの、夫に対する不満は凄まじい。食事のあとの皿洗いは夫がするという約束なのに、いつもしないで寝てしまう。育児にまったく協力してくれない、などなど。あまりに不満を述べる多香美に対して、友人が「さしすせその法則」を教えてくれる。これを使えば、夫も家事全般を手伝うと言うのだ。すなわち、さすが、知らなかった、すごい、センスある、そうなのね、の5語だ。それを使うと、夫も気持ちがよくなるので自ら動くのだという。もっとも、それを別の知人に伝えると、そんなのはよほどできた夫でなければまず出てこないと言う。その知人は、さようなら、死ね、簀巻きにしてやる、性癖最悪、そばに寄るなの5語よとおっしゃる。すごく疲れた夜、近寄ってきた夫の手を振り払った多香美は、次のように思う。

「触るな、しばくぞ、好きじゃない、セックスなんて二度とするか、そんな気さらさらない」

 これは彼女の実感の「さしすせそ」だ。育児が大変なのは子供が小さい間だけで、やがて成長すれば手がかからなくなって楽になる、と先達は言うのだが、そう言われたところでいま現在のしんどさは変わらない。

 本書はそうやって怒る妻の日常を描く長編だが、世の夫諸君が読むと他人事ではないかもしれない。巻末に、夫側の意見を描く短編がついていて、それがなかなか興味深いので、そちらもぜひ読まれたい。

(KADOKAWA 1400円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    広末涼子容疑者は看護師に暴行で逮捕…心理学者・富田隆氏が分析する「奇行」のウラ

  2. 2

    広末涼子容疑者「きもちくしてくれて」不倫騒動から2年弱の逮捕劇…前夫が懸念していた“心が壊れるとき”

  3. 3

    中居正広氏《ジャニーと似てる》白髪姿で再注目!50代が20代に性加害で結婚匂わせのおぞましさ

  4. 4

    広末涼子は免許証不所持で事故?→看護師暴行で芸能活動自粛…そのときW不倫騒動の鳥羽周作氏は

  5. 5

    佐藤健は9年越しの“不倫示談”バラされトバッチリ…広末涼子所属事務所の完全否定から一転

  1. 6

    【い】井上忠夫(いのうえ・ただお)

  2. 7

    広末涼子“密着番組”を放送したフジテレビの間の悪さ…《怖いものなし》の制作姿勢に厳しい声 

  3. 8

    中居正広氏は元フジテレビ女性アナへの“性暴力”で引退…元TOKIO山口達也氏「何もしないなら帰れ」との違い

  4. 9

    大阪万博は開幕直前でも課題山積なのに危機感ゼロ!「赤字は心配ない」豪語に漂う超楽観主義

  5. 10

    カブス鈴木誠也「夏の強さ」を育んだ『巨人の星』さながら実父の仰天スパルタ野球教育