「さしすせその女たち」椰月美智子著
働くママたちの、夫に対する不満は凄まじい。食事のあとの皿洗いは夫がするという約束なのに、いつもしないで寝てしまう。育児にまったく協力してくれない、などなど。あまりに不満を述べる多香美に対して、友人が「さしすせその法則」を教えてくれる。これを使えば、夫も家事全般を手伝うと言うのだ。すなわち、さすが、知らなかった、すごい、センスある、そうなのね、の5語だ。それを使うと、夫も気持ちがよくなるので自ら動くのだという。もっとも、それを別の知人に伝えると、そんなのはよほどできた夫でなければまず出てこないと言う。その知人は、さようなら、死ね、簀巻きにしてやる、性癖最悪、そばに寄るなの5語よとおっしゃる。すごく疲れた夜、近寄ってきた夫の手を振り払った多香美は、次のように思う。
「触るな、しばくぞ、好きじゃない、セックスなんて二度とするか、そんな気さらさらない」
これは彼女の実感の「さしすせそ」だ。育児が大変なのは子供が小さい間だけで、やがて成長すれば手がかからなくなって楽になる、と先達は言うのだが、そう言われたところでいま現在のしんどさは変わらない。
本書はそうやって怒る妻の日常を描く長編だが、世の夫諸君が読むと他人事ではないかもしれない。巻末に、夫側の意見を描く短編がついていて、それがなかなか興味深いので、そちらもぜひ読まれたい。
(KADOKAWA 1400円+税)