北上次郎のこれが面白極上本だ!
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「蓮の数式」遠田潤子著
不妊治療をしている主婦がいる。安西千穂35歳。大学教授の夫も義母も、子供が生まれないことを彼女の責任であるかのように責めてくる。千穂はそういう日々にいる。本書は、自分たちの都合しか考えない安西家から…
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「Y.M.G.A暴動有資格者」三羽省吾著
いやあ、面白い。三羽省吾がこういう小説を書くとは思ってもいなかった。 近未来の日本が舞台である。巨大企業PRNが牛耳る社会となっている。こぼれ落ちた者は水路や地下鉄の引き込み線などの地下に住…
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「ドローンランド」トム・ヒレンブラント著、赤坂桃子訳
アメリカと中国は没落し、ブラジル、アラブ、EUが新しいエネルギーをめぐって覇権を競っている近未来のヨーロッパを舞台にした長編だ。タイトルは、大小さまざまなドローンによって監視されている社会、というこ…
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「襷を、君に。」蓮見恭子著
駅伝小説は数多い。三浦しをん著「風が強く吹いている」、桂望実著「Run! Run! Run!」、瀬尾まいこ著「あと少し、もう少し」、まはら三桃著「白をつなぐ」と、傑作が目白押しのジャンルだ。ここに割…
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「血の極点」ジェイムズ・トンプソン著、高里ひろ訳
フィンランドの警察小説シリーズの第4弾だが、これほど異色のシリーズも珍しいだろう。というのは第1作「極夜」は北極圏の小さな町を舞台にした警察小説だったが、第2作「凍氷」で主人公のカリ・ヴァーラ警部が…
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「ブレイン・ドレイン」関俊介著
犯罪性向を持つ邪悪な人間「欠落者」を選別できるようになった近未来が舞台。欠落者は脱出不可能な人工島に隔離されている。主人公のセイは中学3年のときに受けたテストで欠落者と判定され、それから13年、ずっ…
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「ミレニアム4(上・下)」ダヴィド・ラーゲルクランツ著 ヘレンハルメ美穂、羽根由訳
「ミレニアム」1~3部の素晴らしさについては今さら言うまでもない。第1部が孤島ミステリー&サイコ・スリラーで、第2部が警察小説&復讐小説で、第3部がスパイ小説&リーガル・サスペンスというミステリーの全…
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「おとめの流儀。」小嶋陽太郎著
スポーツ小説は数多いが、なぎなた小説は珍しい。なぎなたの試合のルールについては、たとえば中学生のなぎなたの長さが、2メートル10~25と決められていて、試合は2分間であるなど、さりげなく織り込みなが…
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「神の水」パオロ・バチガルヒ著 中原尚哉訳
新☆ハヤカワ・SF・シリーズの一冊で、しかも「ねじまき少女」の作者の新作であるから、じゃあオレ関係ねえやと思うかもしれないが(「ねじまき少女」を途中で挫折した私がそう思ったんだが)、いやはや面白い。…
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「白日の鴉」福澤徹三著
福澤徹三の小説はいつもリアルだ。そのドラマは小説の中の出来事だというのに、私たちの日常と地続きのような気がしてくる。他人事のような気がしないのだ。まるで友人、あるいは隣人の話を聞いているかのようだ。…
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「ゼロ以下の死」C・J・ボックス著 野口百合子訳
シリーズものの新刊は、全作を読んでないと手に取りにくい。いや、全作でなくても、少なくても数作は読んでないと、途中からは読みにくい。話の展開がわからないんじゃないか、と思っても仕方がない。しかし待って…
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「うそつき、うそつき」清水杜氏彦著
嘘のない社会をつくるために全国民に首輪をする義務を課した国の物語だ。なぜ首輪をするのかというと、その首輪にはランプがついていて、嘘をつくとそれが赤く光り、嘘がすぐにばれるからだ。つまり首輪型の嘘発見…
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「有馬記念全軌跡」芹沢邦雄編集
1956年の第1回から、2014年の第59回までの有馬記念を、エッセーと写真で振り返る書だ。有馬記念の特徴は、まず第1に、ファン投票で出走馬が決まるという特殊なレースなので、ファンの夢に直結している…
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「デッドヒート Final」須藤靖貴著
2020年の東京オリンピックを描く小説が早くも登場だ。舞台は男子マラソン。日本代表となった走水剛の視点で語られていく。「暑い暑い暑い」という冒頭の1行から全編が独白である。つまりマラソンのスタートか…
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「限界点」ジェフリー・ディーヴァー著、土屋晃訳
いやはや面白い。主人公コルティは連邦機関所属のボディーガードである。本書はこの男の一人称で語られる。警護対象は刑事ケスラーとその家族だ。追ってくる敵の名はヘンリー・ラヴィング。拉致して拷問によって情…
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「波に乗る」はらだみずき著
はらだみずきはサッカー小説で知られる作家だが、これは異なる。ここで描かれるのはなんとサーフィンだ。サッカーだけの作家ではないのである。引き出しはまだまだあるということだ。いや、サーフィンは物語の背景…
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「店長がいっぱい」山本幸久著
自戒を込めて書くが、書評家の注目は新人作家に集中しやすい。それは新しい才能と出合うことが本を読む喜びのひとつであるからだ。しかしそのために中堅作家の作品への注目がやや遅れてしまう傾向は否定できない。…
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「波の音が消えるまで」(上・下)沢木耕太郎著
著者初のエンターテインメント小説だ。なんと博打小説である。しかも、博打シーンを物語の彩りにしているだけで主眼は別のところにあるというわけではなく、最初から最後まで博打がメーン。つまり、本格的な博打小…
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「判決破棄(上・下)」マイクル・コナリー著、古沢嘉通訳
マイクル・コナリーには、「ハリー・ボッシュ」シリーズと、「リンカーン弁護士」シリーズがある。どちらも人気シリーズだが、この2つが合体したらどうなるだろうという興味に応えた作品が本書。すなわち、「リン…
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「僕は小説が書けない」中村航・中田永一著
高校1年の光太郎は廃部寸前の文芸部に入り、小説を書かなければならなくなる――これはその顛末を描いた学園小説で、軽妙に読ませるが、そういうことよりも本書成立の事情が興味深い。 本書は、中村航と…