「うそつき、うそつき」清水杜氏彦著
嘘のない社会をつくるために全国民に首輪をする義務を課した国の物語だ。なぜ首輪をするのかというと、その首輪にはランプがついていて、嘘をつくとそれが赤く光り、嘘がすぐにばれるからだ。つまり首輪型の嘘発見器である。そういう超管理国家を舞台にした長編だが、主人公は首輪を外す技術を持つ少年フラノ。もちろん非合法だが、首輪を外す理由に納得がいかない場合は仕事を引き受けない。そこで依頼者はフラノに、なぜ自分は首輪を外したいと思っているのか、その理由を話さなければならない。
本書の見返しから依頼者を拾えば、強盗犯、あざのある少女、詐欺師、不倫妻、非情な医者、優しすぎる継母など、次々にフラノを訪ねてきて、その理由を語りだす。
この一つ一つの挿話が実に読ませて飽きさせない。人物造形と描写力にすぐれ、実に鮮やかといっていい。奇想あふれる世界を、とても自然に、そして鮮やかに描きだすのだ。その筆力にまず感服する。さらに、それだけでなく、全体の底を大きな謎が流れているから最後まで目が離せない。
どうしてこのような超管理社会が出現したのか、それについては本書で描かれない。それは確信犯というもので、著者の興味はそういう社会が到来したら、人々の暮らしはどうなるのかという一点にある。これが実にうまい。第5回アガサ・クリスティー賞の受賞作だが、同時に別の作品で小説推理新人賞を受賞。将来性豊かな新人の登場だ。