「Y.M.G.A暴動有資格者」三羽省吾著
いやあ、面白い。三羽省吾がこういう小説を書くとは思ってもいなかった。
近未来の日本が舞台である。巨大企業PRNが牛耳る社会となっている。こぼれ落ちた者は水路や地下鉄の引き込み線などの地下に住み、工事現場等で低賃金で働いている。社会から見捨てられた民だ。貧富の二極化が進み、中間層のいない社会と言い換えてもいい。
そういう時代の若者たちの話だ。身体能力抜群の少女リオ、弟分のオトヤ、リーダーのオーティーらは窃盗団を結成し、地上を荒らしまくっている。そこに現れたのは空飛ぶバイク「アフロ」を自由に乗り回す謎の青年カイ。本来、地下の住民が手にすることはできない「アフロ」を入手した窃盗団YMGAは、行動をエスカレートさせていく。
地上の警察官であるのに地下住民に味方する遠野、PRN系列の保険会社に雇われた用心棒雨狗、特区の食堂で働くカーチャンなど、個性豊かな登場人物が入り乱れ(そのそれぞれのドラマも奥行きがあってなかなかいい)、色彩感あふれる物語が展開していく。
つまり背景よく、小道具よく、キャラクターも構成も、すべてが素晴らしい。アクションの切れも半端じゃなく、迫力満点の戦いが始まっていくのだ。厳密には異なるものの、内戦状態の日本を描く打海文三の傑作「裸者と裸者」を思い出してしまった。近未来を鮮やかに描く物語という点では似ているだろう。三羽省吾の傑作だ。(朝日新聞出版 1700円+税)