「有馬記念全軌跡」芹沢邦雄編集
1956年の第1回から、2014年の第59回までの有馬記念を、エッセーと写真で振り返る書だ。有馬記念の特徴は、まず第1に、ファン投票で出走馬が決まるという特殊なレースなので、ファンの夢に直結していること。第2は、一年の最後に行われるので、その年の締めくくりの意味が込められていること。この2つが大きい。
どのレースより馬券の売り上げが多いのも、そういう有馬記念の特別な位置を示しているように思われる。
これまでに数々のドラマがあった。ヴィクトワールピサとブエナビスタがハナ差の死闘を演じた平成22年は外国人騎手が上位を独占。圧倒的な1番人気のディープインパクトをハーツクライが破ったのは平成17年。アメリカ同時多発テロが起きた平成13年に勝ったのはマンハッタンカフェで、15番人気のメジロパーマーが逃げ切って大波乱となったのは平成4年である。オグリキャップの「感動のラストラン」は平成2年。本書を読んでいくと次々にそれらのゴールシーンが蘇る。
いちばん印象深いのは、第1回の覇者メイヂヒカリの項だ。この馬の馬主・新田新作は明治座のオーナーで、プロレスや大相撲の後援者としても知られた人物であったが、有馬記念(当時の名称は中山グランプリ)の半年前に急逝。その葬儀に、メイヂヒカリが参列していたというのだ。何時間もおとなしくじっと立っていたという。今年の第60回有馬記念は12月27日に行われる。(トレンドシェア 2685円+税)