著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「襷を、君に。」蓮見恭子著

公開日: 更新日:

 駅伝小説は数多い。三浦しをん著「風が強く吹いている」、桂望実著「Run! Run! Run!」、瀬尾まいこ著「あと少し、もう少し」、まはら三桃著「白をつなぐ」と、傑作が目白押しのジャンルだ。ここに割って入るのは大変である。しかし本書はなかなか健闘している。

 高校駅伝小説だが、主人公の倉本歩は中学時代、さしたる記録を持たない選手であったとの設定である。ただ走ることが好きな女子だ。だから港ケ丘高校に入学したときも、陸上部に入ろうとするのは当然である。ところが、鬼のようなコーチは中学時代に誇れる記録を持たない歩の入部を認めない。つまりこのヒロインは、入部するところから戦わなければならないのだ。

 幸運にも入部は認められるが、先輩たちにはもちろん勝てず、さらに同期よりも遅く、これでは試合に出場できない。いわば、その他大勢の二流ランナーである。

 そういう落ちこぼれランナーの目から高校駅伝が描かれていくから、一流ランナーの見る風景とは異なるものが現出してくる。それは駅伝がチームプレーだということだ。一人の天才がいるだけではダメだということだ。襷をつなぐことの意味がこうして鮮やかに描かれるのである。

 個性豊かな脇役たちの造形もよく、後半のスピーディーな展開もよく、気がつくと、走る彼女たちを応援しているのである。(光文社 1500円+税)




最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ