「神の水」パオロ・バチガルヒ著 中原尚哉訳
新☆ハヤカワ・SF・シリーズの一冊で、しかも「ねじまき少女」の作者の新作であるから、じゃあオレ関係ねえやと思うかもしれないが(「ねじまき少女」を途中で挫折した私がそう思ったんだが)、いやはや面白い。水利権をめぐって各州が対立する近未来のアメリカ南西部を舞台にした物語なので、たしかにSFではあるけれど、しかし展開する物語はサスペンスたっぷりで、ミステリー好き読者にこそ読まれてほしいと思う。しかも今度は読みやすいのだ。
水利権をめぐる各州の争いは現実のアメリカにもあり、そういう意味でもリアルな物語といっていい。本書では、コロラド川の水資源をめぐって対立する各州が州境を閉ざして軍事的に一触即発の状態になっているが、つまりここに描かれているのは、地続きの未来なのである。
語り手は3人。ラスベガスの水工作員アンヘル、女性ジャーナリストのルーシー、テキサス難民の少女マリア。この3人のドラマが交錯するように描かれ、やがて絡み合っていく。中心にあるのは、ある秘密文書だ。ようするに本書は、「各州が州軍を押し立てて武力対立するにいたった、いわば水道局戦争の物語」(訳者あとがき)であると同時に、ある種の宝探しの物語なのだ。人物造形がまずよく、物語のテンポも快調で、アクションの切れまで素晴らしい――三拍子揃った傑作である。(早川書房 2000円+税)