「波に乗る」はらだみずき著
はらだみずきはサッカー小説で知られる作家だが、これは異なる。ここで描かれるのはなんとサーフィンだ。サッカーだけの作家ではないのである。引き出しはまだまだあるということだ。いや、サーフィンは物語の背景にあるだけで、この長編の中心ではない。では中心にあるのは何か。
大学を卒業して就職した会社を1カ月で辞めた文哉のもとに、父親の死の知らせが届くところからこの物語は始まっていく。まず、文哉と父親がどういう親子だったかを書いておけば、文哉が幼いときに両親が離婚。彼は姉と一緒に父親に引き取られる。姉が家を出て行ってからは父親と2人暮らし。会話もない生活だった。
大学入学と同時に文哉は親元を離れて自立し、それ以降はめったに家にも帰らず、そのうちに父親は会社を辞めて南房総に引っ越していく。その知らせをもらったときも深くは考えなかった。彼らはそういう親子である。
父親と息子の男同士というのはそういうものなのかもしれないが、文哉と父はあまり話をしたことがない。だから父が何を考えていたのか、文哉にはわからない。父の住んでいた海辺の町に行って、人生の晩年にどんな暮らしをしていたのか、何を考えていたのか、そこで彼は知ろうとする。そうすると知らない父親の顔が次々に立ち上がってくる。つまりこれは、息子が父を理解する物語なのだ。