著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「サイレント・スクリーム」アンジェラ・マーソンズ著、高山真由美訳

公開日: 更新日:

 異色警察小説の登場である。何が異色かというと、ヒロインの圧倒的な個性の爆発に、クラクラしてしまうからだ。すごいぞ。

 そのヒロインとは、ウエスト・ミッドランズ警察の女性警部キム・ストーンだ。34歳独身。趣味はバイク。10年前に閉鎖された児童養護施設をめぐる謎を、1回り年上の部下ブライアンとともに調べ始めるという話だが、このヒロイン、上司の言うことは聞かず、思いつくと後先考えずに飛び出していくから、ブライアンも大変だ。

 しかし徐々に判明してくるのだが、後先考えずに飛び出していくのは、このヒロインがあわて者というわけではない。キム・ストーンには過酷な幼少時代を送ってきたという経緯がある。だから、児童養護施設をめぐる事件が彼女にとっては他人事ではないのだ。規律を乱し、乱暴で、無軌道に見えるキム・ストーンの行動は、彼女の体に眠る熱い感情にほかならない。

 もちろん警察小説としての面白さも十分だが、彼女はどういう幼少時代を過ごしてきたんだろうという興味がむくむくと湧き起こってくる。まだ語られていないことはたくさんあるので、それは今後の楽しみにしたい。

 著者は本書の電子書籍版でデビューしたイギリスミステリー界の新星で、もちろん日本紹介も初。このキム・ストーンを主人公にしたシリーズはイギリスですでに7作まで書かれているという。ぜひ続刊を期待したい。 (早川書房 1100円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ