著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「浮き世離れの哲学よりも憂き世楽しむ川柳都々逸」坂崎重盛著

公開日: 更新日:

 川柳は俳句と同様に五七五だが、季語や切れ字などのルールに縛られず、自由な表現が許されるもの。都々逸は七七七五。和歌よりも少ない文字数の短詩型文芸のひとつで、主に人情・風俗をうたう俗謡を起源とするもの。その川柳と都々逸を紹介しながら、男女の行為や心理、また生きた人生哲学を味わうエッセー集である。

 著者の坂崎重盛は、「東京本遊覧記」や「粋人粋筆探訪」などの著作を持つ人で、こういう案内の適任者といっていい。

 重くなるとも持つ手は二人 傘に降れ降れ夜の雪

 夢で見るよじゃ惚れよが浅い 真に惚れたら眠られぬ

 一人笑うて暮らそうよりも二人涙で暮らしたい

 惚れた数から振られた数を引けば女房が残るだけ

 枕出せとはつれない言葉 そばにある膝知りながら

 引用を始めていくときりがない。どれも説明抜きにわかる都々逸だ。すぐに情景が浮かんでくる。

 本書で初めて知ったのは、NHKラジオに都々逸の番組があったこと。さらに、都々逸の表記を「どどいつ」とひらがなにした中道風迅洞という作家がいたこと。それは、都々逸をお色気、エロの世界からもっと世俗一般を表現する短詩型文芸に変えたいという意図があったことなど、そうだったのかということが次々に出てくる。

 本書を読むと、都々逸をもっと知りたくなる。書店に走って関連書を買いたくなる。とりあえずは中道風迅洞の「新編どどいつ入門」と、吉川潮著「浮かれ三亀松」だ。(中央公論新社 1700円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  2. 2

    ドジャース佐々木朗希の離脱は「オオカミ少年」の自業自得…ロッテ時代から繰り返した悪癖のツケ

  3. 3

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  4. 4

    永野芽郁は大河とラジオは先手を打つように辞退したが…今のところ「謹慎」の発表がない理由

  5. 5

    “貧弱”佐々木朗希は今季絶望まである…右肩痛は原因不明でお手上げ、引退に追い込まれるケースも

  1. 6

    大阪万博「午後11時閉場」検討のトンデモ策に現場職員から悲鳴…終電なくなり長時間労働の恐れも

  2. 7

    威圧的指導に選手反発、脱走者まで…新体操強化本部長パワハラ指導の根源はロシア依存

  3. 8

    ガーシー氏“暴露”…元アイドルらが王族らに買われる闇オーディション「サウジ案件」を業界人語る

  4. 9

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  5. 10

    内野聖陽が見せる父親の背中…15年ぶり主演ドラマ「PJ」は《パワハラ》《愛情》《ホームドラマ》の「ちゃんぽん」だ